四半世紀のその先へ! 多彩な作品とスター歌手&指揮者がならぶ充実の記念シーズン
オペラハウスというのは面白いもので、それまで築き上げてきた手持ちのプロダクションを大事にしつつも、トップが変わると新制作の演目を中心に舞台上で大事にされる物事が大きく変わってゆく。新国立劇場オペラ部門の芸術監督を2018年のシーズンから務める大野和士は、海外歌劇場で要職を担ってきた経験を踏まえているのだろう。まず何よりも新国立劇場を国際的に通用するオペラハウスにすべく尽力し、数々の話題公演を生み出している。
今シーズンの注目ポイントは「取り上げてこなかった演目の拡充」——なかでも国内団体が管弦楽を伴って上演するのが46年振りとなるムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》(新制作)は絶対に見逃せない(11/15〜11/26)。ロシアオペラの頂点に君臨するこの傑作中の傑作を演出するのは(METのラトル指揮《トリスタンとイゾルデ》でも話題を呼んだ)マリウシュ・トレリンスキだ。良い意味でリアルさを抑えた衣裳や舞台美術はデザイン性が高くて格好良く、彼お得意の映画的技法を用いた心理描写で本作のテーマである独裁者の葛藤を刺激たっぷりに描いてくれるはず。タイトルロールを演じるギド・イェンティンスは《パルジファル》のグルネマンツなど力強くも悩ましい役どころを得意としているので、何度も共演を重ねる大野のサポートを得て権力者ボリスをどう演じるのか楽しみだ。
新制作としては《リゴレット》にも注目したい(2023.5/18〜6/3)。エミリオ・サージの演出は2013年にビルバオ・オペラで映像収録されているのだが、ビジュアル面は現代的に磨き直されつつも伝統的な世界観を壊さないので、オールドファンから初心者まで誰もが満足できる内容になっている。欧米の一流歌劇場で一流歌手と共演してきた職人的名指揮者マウリツィオ・ベニーニが久々に新国に来るのも、メータやバレンボイムといった名指揮者から指名を受けるジョルジュ・ペテアンのタイトルロールも期待値が高いし、ジルダ役のハスミック・トロシャンも以前新国の《ドン・パスクワーレ》で代役ながら話題をかっさらっていった次期世界的スター間違いなしだ。
もちろんレパートリー演目も気になる公演ばかりだ。《ドン・ジョヴァンニ》(22.12/6〜12/13)には、クルレンツィスの指揮でも同役を歌っていたシモーネ・アルベルギーニ、《タンホイザー》(23.1/28〜2/11)では新国でお馴染みとなった世界一のヘルデンテノールのひとり、ステファン・グールド 、《ファルスタッフ》(2/10〜2/18)にはガーディナー指揮で昨年、この役の素晴らしい録音を残しているニコラ・アライモ、《ホフマン物語》(3/15〜3/21)のホフマン役を歌わせたら現状世界最高のひとりレオナルド・カパルボ、《サロメ》(5/27〜6/4)には古楽から後期ロマン派まで多様なスタイルを歌いこなしながらも常に濃厚な表現を聴かせてくれるアレックス・ペンダ、大野が指揮する《ラ・ボエーム》(6/28〜7/8)のミミ役とロドルフォ役には歌唱のみならずキャラクター的雰囲気も含めてこの役にうってつけのアレッサンドラ・マリアネッリとスティーヴン・コステロが出演。このようにタイトルロールを中心にして、世界各国からこの役で聴きたいと思わせる第一線の歌手が集められているので、どの公演でもきっとご満足いただけるだろう。
そして新国の記念年に再演される重要なレパートリー、ゼッフィレッリ演出の《アイーダ》も忘れてはならない(4/5〜4/21)。豪華絢爛な美術に負けない一流指揮者・歌手が今回も揃っているので、オペラ好きではなくとも一生に一度は観ておきたいプロダクションだ。まだ観たことがないという方は来年こそ見逃さないでほしい!
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2022年11月号より)
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/
※各公演、発売日の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。