あらゆる鍵盤楽器奏者が“目標”とする作品である「ゴルトベルク変奏曲」。この作品にここまで何度も向き合う演奏家は塚谷水無子以外にいるだろうか。彼女はこれまでにオルガンやトイピアノ、そしてブゾーニによるピアノ編曲版などで録音し、様々な角度から楽曲の謎や魅力に光を当ててきたが、6度目の録音となる今回はベーゼンドルファーを用いて、18世紀の演奏様式を厳格に守りながらの演奏。楽曲のあらゆる可能性を知る塚谷は、“バッハの原点”の中からも色彩豊かな音色、リズムの面白さといった喜びを見せてくれる。まだこの曲での挑戦は続くとのことで、早くも次が楽しみである。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2022年4月号より)