武満ソングはシンプルだからこそ、ベテランの味わいがでやすいように思う。日本語の美しさが際立ち、言葉がメロディという翼を得て飛んでゆく。それからギター。高度な編曲をさりげなく聴かせるだけでなく、弾けたり湿ったりと音に表情がある。戦後の何もない時代の喜怒哀楽、生活のうるおいが浮かんでくる演奏だ。後半の細川作品は、民謡の編曲や和歌集に基づく歌曲で、長く引き伸ばされた言葉と音が、空間に静かに溶け込んでいく。そこに私たちの先祖が営んできた歴史の重みが、ほんのりと香り立つ。動と静を対比させた巧みな選曲にも導かれ、いつの間にか沈思黙考へと誘われていた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年12月号より)
【information】
CD『武満徹・細川俊夫 声とギターの世界/大橋多美子&谷辺昌央』
武満徹:「SONGS」より〈○と△の歌〉〈明日ハ晴レカナ 曇リカナ〉〈小さな空〉〈翼〉〈死んだ男の残したものは〉(以上渡辺裕紀子編)、〈小さな部屋で〉(北爪道夫編)/細川俊夫:「日本民謡集」より〈子守歌〉〈さくら〉、恋歌Ⅰ、南部牛追歌(声とギター版) 他
大橋多美子(メゾソプラノ)
谷辺昌央(ギター)
コジマ録音
ALCD-7268 ¥3080(税込)