ウィーン放送響で活躍する逸材が低音の魅力を余すところなく伝える
コントラバスといえばオーケストラやバロック音楽、ジャズなどあらゆる分野に欠かせない楽器だが、ソロ・リサイタルとなると意外に聴く機会は少ないのではなかろうか。東京オペラシティの名物企画「B→C バッハからコンテンポラリーへ」は、これまでもソロではフィーチャーされにくい楽器にも光を当ててきたが、12月にはウィーン放送交響楽団奏者の森武大和が登場する。
東京藝大卒業後、バイエルン放送響のサウンドに憧れてミュンヘンに留学して以来、ヨーロッパでオーケストラ奏者の道を歩んできた森武にとって、独奏楽器としてのコントラバスの魅力はどんな点にあるのだろうか?
「チェロには出せない低音楽器の魅力にあると思います。チェロと同じ音域を弾いていてもコントラバスの音色(ねいろ)はまったく違っていて、どちらかといえばヴィオラ・ダ・ガンバ系の音色で、もっと太い音が出ます。自分自身、弾いていてクジラの声を聴いているみたいな心地良い気分になります。その一方で、中音域や高音域も出せますし、その幅の広さも魅力です」
今回のB→Cでは、そうした特性を生かした多彩なプログラム作りを目指したと話す。P.グラスの「ティシュー第7番」(原曲はチェロ)は、作曲家の許可を得て弾く、思い入れのある作品。また自身コントラバス奏者である小室昌広に委嘱した新作については、「コントラバスにしかできない表現を書かれる小室さんらしい、バッハをテーマにしたちょっとクレイジーな曲」と語る。使用するのは19世紀中頃にチェコで製作された4弦の楽器で、ガット弦をベースに作られた弦を張っているという。
言うまでもなくB→Cの出発点はバッハであり、今回はヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第1番と無伴奏チェロ組曲第1番を選曲。そもそもコントラバス奏者にとってバッハはどんな存在なのだろうか?
「バッハをコントラバスで弾くのはとても難しく、実際レパートリーとして定着しているのはガンバ・ソナタ第2番ぐらいですが、個人的にはいくら難しくても諦めないで挑戦するべきだと思っています。特に無伴奏チェロ組曲は大事な演奏会で取り上げたいと思っていましたので、良い機会をいただけて嬉しいです」
ウィーンでは慈善活動にも力を注ぎ、同僚らに声をかけて難民支援や小児がん患者のためのチャリティー演奏会を自ら企画してきた。「音楽家が社会にどう関わっていくか、いま大事な時期だと思うんです。オーストリアでは音楽家は税金をもらってやっていますが、それを社会にどうフィードバックしているのかを外に知ってもらうのも大切なこと」と使命感をのぞかせる。
満を持して挑むB→Cの舞台でいったいどんな低音ワールドを繰り広げてくれるだろうか。
取材・文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2021年12月号より)
東京オペラシティ B→C(ビートゥーシー) 森武大和(コントラバス)
2021.12/14(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp