日本の新しき名手2人が繰り広げるピアノ・バトル
東京芸術劇場が新たなリサイタル・シリーズ「VS(ヴァーサス)」をスタートさせる。これは「ピアノ・デュオ(2台ピアノ)の演奏」によって2人の異なる個性を持つピアニストがそれぞれの表現力や感性、技術がぶつかり合うことで生まれる、ライブでしか味わえない熱狂的な空間を創造する新しいリサイタルで、予想することができない「衝突」を聴き手とともに体感しようという試みである。
記念すべき第1回に登場するのは、幼なじみの反田恭平と小林愛実。彼らが2台ピアノによる初共演に選んだのはモーツァルト、シューマン、ルトスワフスキ、シューベルト、ブラームスというプログラム。じっくり話し合って決めたというこの選曲は、耳になじみのある人気作品モーツァルトで開幕し、2人がどんな奏法、表現、解釈をするかをたっぷり堪能することができる。次いでシューマンの短い曲をはさみ、ルトスワフスキの変奏曲へとつなげる。これは演奏機会に恵まれている作品ではないが、「パガニーニの主題」がよく知られているため聴きやすい。後半は王道のシューベルトとブラームスが登場。2人の才能のぶつかりあい、作品のすばらしさを共有する思い、丁々発止の音のやりとりが存分に楽しめ、火花を散らすような瞬間に出会える。
反田も小林も幼いころからピアノと共にあり、反田はポーランド、小林はアメリカで研鑽を続けている。その成果が「VS」で炸裂、手に汗握る高揚感に満たされる。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2021年11月号より)
2021.12/8 (水)19:00 東京芸術劇場コンサートホール【予定枚数終了】
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
https://www.geigeki.jp