N響コンサートマスター・伊藤亮太郎とピアノの重鎮・清水和音のベートーヴェン。伊藤のヴァイオリンはイントネーションが清潔で爽やかだ。ソナタ「春」は瑞々しく美しい。しなやかな旋律と溌溂としたリズム楽句のバランスが快い。その充実の音響には思わず鳥肌が立つほど。ハ短調のソナタ第7番は、冒頭から緊張度が高く、力感漲る。伊藤と清水のせめぎ合いに息を呑む。緩徐楽章の平和な歌には耽溺しそうになるが、コーダの音階上行の嵐で目が覚める。スケルツォ中間のリズムの畳み掛け、フィナーレのトリルとバス連打の衝撃とエネルギー爆発、挿入句の優しさとの対比など、第1級のベートーヴェンだ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2021年11月号より)
【information】
SACD『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」、第7番/伊藤亮太郎&清水和音』
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」・同第7番
伊藤亮太郎(ヴァイオリン)
清水和音(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00757 ¥3520(税込)