名は音楽史に刻まれているのに、曲が聴かれていない作曲家の代表格がジョン・ケージだ。「あの、なんもしない曲を書いた人ね」くらいのイメージの人は、ぜひこのディスクを聴いてほしい。プリペアド・ピアノとはピアノ線の間にゴムやねじを挟み音色を変化させたものだが、ただそれだけの細工なのに、ガムラン楽器やスチールドラム、トイ・ピアノなど、一台のピアノから千変万化の音色が現れる。ポリリズムやミニマリズムといった非西欧の発想の合間に、さらりと調性音楽が滑り込んでいる。この「大真面目な一人遊び」感こそがケージなのだ。北村朋幹はそんな遊びを緻密に再現している。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年10月号より)
【information】
SACD『ケージ:プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード/北村朋幹』
ケージ:プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード/グリーグ:抒情小曲集 第5集より「鐘の音」
北村朋幹(ピアノ)
フォンテック
FOCD9850 ¥3080(税込)