皆が知るはずの「ギター」はここで土橋庸人と山田岳により聴き手にとってほとんど未知の領域を提示させられた。収録曲は全5曲、ここでは歌の抒情性や感傷性というものはきれいさっぱりと排除され、その即物的な音響の可能性が徹底的に追求される。奇抜な奏法とテキストの朗読が既存の物語的文脈を解体するラッヘンマン、特殊な調弦がまったく独特の音響世界を現出させるファーニホウ、2台のギターが1分間にそれぞれ1Hzずつ厳密に調弦を変化させながらドローン(持続)音を生み出し音のうなりを発生させるルシエ他…。聴いてもらうしかないが、音楽の可能性と自由さに気付かされる稀有な一枚。
文:藤原 聡
(ぶらあぼ2021年7月号より)
【information】
CD『ARCS/土橋庸人&山田岳』
ラッヘンマン:コードウェルのための礼砲/福井とも子:doublet Ⅲ/ファーニホウ:(まったく)時間がない/中谷通:2_1/64_1/ルシエ:Criss-Cross
土橋庸人 山田岳(以上ギター)
コジマ録音
ALCD-126 ¥3080(税込)