イタリア・オペラの分野において八面六臂の活躍ぶりをみせる上江隼人による待望のソロ・アルバムは、ヴェルディのオペラ・アリア集『ヴェルディアーノ』。柔らかくもドラマティックさと明晰さにも事欠かない歌は、和洋問わずそれまでのヴェルディ・バリトンの中でも独自の高みにあることが1曲目《スティッフェーリオ》のスタンカーのアリアから早くも明らかとなる。また《ラ・トラヴィアータ》を聴けばセンシティヴな心情表現に長けていることも体感させられ、これを日本人的美質と言って良いのかはさておき、とにかく上江の歌は卓越している。上江父子〈くろゆり〉二種併録も洒落ているじゃないの。
文:藤原 聡
(ぶらあぼ2021年3月号より)
【information】
CD『ヴェルディアーノ/上江隼人』
ヴェルディ:《スティッフェーリオ》より〈やつは逃げた〜リーナは天使に思えた〉、《リゴレット》より〈悪魔め 鬼め〉、《ラ・トラヴィアータ》より〈プロヴァンスの海と陸〉、《ドン・カルロ》より〈私の最期の日が来ました〉(5幕版)、詩人の祈り、墓に近寄るな、亡命者/加藤亜祐美:くろゆり 他
上江隼人 上江法明(以上バリトン)
松村優吾 加藤亜祐美(以上ピアノ)
ナミ・レコード
WWCC-7937 ¥2500+税