フォルテピアノ奏者の小倉貴久子がベートーヴェンの記念年に録音したのは、後期クラヴィーアソナタの様式が確立された頃である、第27番、第28番、第29番のソナタ。使用された1845年製J.B.シュトライヒャーは、ベートーヴェンが信頼した製作者一族による楽器。フォルテピアノならではの音のバランス、トリルの音の質感や、それらを自在に操る小倉の音の粒立ちのおかげで、ベートーヴェンの音楽的な“攻め”の姿勢がくっきり耳に届く。ハーモニーの厚みの変化も新鮮。「ハンマークラヴィーア」のクールさは特に強いインパクトを残す。ベートーヴェンの脳内の耳が求めた音楽に迫る録音。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2021年1月号より)
【information】
CD『ベートーヴェン ハンマークラヴィーア/小倉貴久子』
ベートーヴェン:クラヴィーア・ソナタ第27番〜第29番「ハンマークラヴィーア」
小倉貴久子(フォルテピアノ)
コジマ録音
ALCD-1201 ¥2800+税