快進撃のノット=東響だが、この「第九」でもやってくれた。何より速いテンポに驚かされる。通常は70分以上かかるところを彼らは62分弱。冒頭楽章は速いテンポで前進駆動し、攻撃的に進める。結尾楽句の付点リズムもくっきり。ティンパニも効いている。常にインテンポというわけでなく、例えばスケルツォ再現部の弱音の推移でテンポを落とす。それによって前後の強音の両主題が一層際立つ。終楽章も速いテンポできびきびと立体的に造形する。行進曲では英雄が突き進むかのようだ。二重フーガでは一転、遅いテンポで対位法的な声部の絡みを明確に打ち出す。最後の頂点も圧倒的だ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2021年1月号より)
【information】
SACD『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」/ノット&東響』
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」
ジョナサン・ノット(指揮)
ルイーズ・オルダー(ソプラノ) ステファニー・イラーニ(メゾソプラノ) サイモン・オニール(テノール) シェンヤン(バスバリトン)
東京交響楽団
東響コーラス
収録:2019年12月、サントリーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00740 ¥3200+税