美声の競演をじっくりと味わい尽くすひととき
これはうれしい! いま一番聴きたい男声二人の魅力がぎゅっと詰まった必聴のコンサート。望月哲也の透明で凛と響くテノール。青山貴のやわらかくノーブルなバリトン。声の美しさだけでも際立つ存在の二人が、聴く者の魂をゆさぶる深い表現で歌うのだから完璧だ。
オペラ二重唱の間に歌曲と《カルメン》のアリアをはさむプログラム。ヴェルディ《ドン・カルロ》の〈我らの胸に友情を〉は3度進行のハモりっぱなしで友情を誓い合う有名な二重唱。もう一曲、ビゼー《真珠とり》の〈聖なる神殿の奥深く〉はテノールとバリトンの二重唱のベストワン。二人にぴったりの美しい音楽だ。歌曲セクションの選曲センスもカッコいい。望月は山田耕筰の「雨情民謡集」。民謡風の節回しが芸術歌曲に昇華した名作。青山はラヴェル最後の作品の「ドゥルシネア姫に想いを寄せるドン・キホーテ」を。スペインの舞曲のリズムに基づいた作品なので、“民謡つながり”ということにもなる。
この二人、高校時代は同じ学校の合唱部の3年生と1年生。プレトークではそんな先輩・後輩キャラもじんわりと伝わってくるのではないだろうか。ピアノは名人・河原忠之。
平日お昼の60分で楽しめる第一生命ホールの好評企画「昼の音楽さんぽ」は、はからずも“ニュー・ノーマル”にも合致した安心サイズ。いろんな不安はいったん置いて、音楽に浸るひととき。そうだ! 10月にプレ運行の始まった東京BRTに乗って晴海へ行こう。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2020年11月号より)
2020.12/9(水)11:15 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702
https://www.triton-arts.net