NHK交響楽団ヴァイオリニストの齋藤真知亜が、1999年から毎年開催してきたリサイタルが昨年20年目を迎えた。当盤はそのライヴ録音だが、当日アンコール曲だったペルトの「鏡の中の鏡」が先頭に配置されているのが効果的。鷹羽弘晃の優しく美しいピアノに乗り、どこまでも静謐で研ぎ澄まされた音だけが流れる世界。鏡のような水面が永遠に続くかのような時間は、不安の時代にこの上なく沁みる。「作品を利用して自分を押し出すのは大嫌い」と語る齋藤らしく、他の作曲家も純度の高い音色で弾きこみ、オッフェンバックの楽しさや歌心、ピアソラの情熱と憂愁も丁寧にすくい取る。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2020年5月号より)
【information】
CD『鏡の中の鏡/齋藤真知亜』
ペルト:鏡の中の鏡/クヴァンツ:ソナタ第5番/オッフェンバック(鷹羽弘晃編):メドレー〈ホフマン物語〜天国と地獄〉/ピアソラ:タンゴの歴史、デカリシモ(鷹羽編)
齋藤真知亜(ヴァイオリン)
鷹羽弘晃(ピアノ)
収録:2019年6月、Hakuju Hall(ライヴ)
マイスター・ミュージック
MM-4075 ¥3000+税