カンブルラン&読売日本交響楽団の12月定期はバルトークを中心にしたプログラムだ。今回の選曲では、卓抜なオーケストレーションで目にも綾なスペクタクルを展開してくれるバルトークの醍醐味が味わいつくせる。最晩年の白鳥の歌ともいうべき「ピアノ協奏曲第3番」を弾くのはハンガリー人を父、日本人を母に持つ話題の若手、金子三勇士だ。民衆に伝わる舞踊の躍動感を濃縮した「ルーマニア民族舞曲」は6つの小曲からなるが、それぞれが独特なリズムや和声を持つ人気楽曲だ。メインは宦官が少女に誘惑される様を狂おしく、そしておどろおどろしく描くバルトーク盛期の傑作「中国の不思議な役人」組曲。演奏が難しい上に内容も過激なことから、作曲当時何度も上演禁止の憂き目にあった問題作だ。
導入には同郷ハンガリー人、リゲティの「ロンターノ」が置かれている。少しずつ異なった動きが重なり合い、遠くのほうからかすかに表れた兆しが巨大な積乱雲のように発展する。ナチスから共産圏の支配下へと移行したハンガリーでは、最先端の現代音楽は禁じられていたから、青年期のリゲティにとってバルトークは現代音楽そのものだった。両者は作風こそ異なるが、抽象的な思考が感性を刺激するところまで血肉化されている点で共通する。またルーマニアとの国境付近で生まれたリゲティにとって、「ルーマニア民族舞曲」には懐かしい響きが盛り込まれていたはずだ。
現代ものには定評があり、長くウィーンの現代音楽集団クラングフォーラム・ウィーンの首席客演指揮者の任にあるカンブルランのこと、気心知れた読響をリードして緻密かつツボを得た演奏を聴かせてくれるはずだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2013年10月号から)
★12月10日(火)・サントリーホール
問 読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp