無伴奏チェロ組曲に平和への祈りをこめて
「この分裂の時代にあって、文化が生み出す共通の理解こそ、私たちを“ワンワールド”として結び付け、人類全体に恩恵をもたらす、政治的・経済的な決断へ導くことができます。私たちは皆、文化的な存在なのです。文化が我々をどう結びつけ、より良い未来を築くのに役立つのか、共に探究しましょう」
ヨーヨー・マは、こう人々に呼びかける。彼はもはや、単なるチェリストではない。人々の平和と喜びを祈る、崇高なる求道者なのだ。
そんな彼が2018年8月、バッハの無伴奏チェロ組曲を携え、2年間の長い旅に出た。最初にチェロを習い始めた4歳の時から、自身にとっての“聖書”である全6曲を、世界36の場所で弾く彼の姿は、さながら巡礼者のよう。この「バッハプロジェクト」は、当作品とヨーヨー・マとの60年にわたる関係だけでなく、人々の対話が不和へと向かいつつある時にも、人間性を共有して語ることができるバッハの音楽のもつ力も、動機となったという。
その日本公演は、アーティスト自身の強い希望で実現した、沖縄での1ステージ限り。当初は首里城での開催を計画していたが、昨年10月31日の火災により、やむなく会場が変更に。75年前の悲劇だけでなく、新たな悲しみとその再生への願いを込めた演奏となろう。ステージの前後には、ヨーヨー・マが地元の人たちと交流するイベントも行われる。
文化と対話、それぞれの場所に特有の環境、そこで成されるクリエイティヴな経験。これら全てが、人類の未来を切り拓いてゆく。さあ、チェリストの“祈り”に耳を澄まそう。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2020年3月号より)
*新型コロナウイルスの感染症の拡大防止の観点から、本公演は延期となりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
2020.3/28(土)16:30 沖縄コンベンションセンター 展示棟
問:ピーエムエージェンシー098-898-1331
https://www.legare-music.info