俊英ヴァイオリニストがデビューアルバムに「ブラームスのソナタ全曲」を選ぶ。賭けではなく必然として、この高峰に挑んだのが中村太地である。ウィーンで本場の語法を学んだ彼は、ブラームス国際コンクールで優勝した後にも、その勢いに任せず、他の流派の巨匠にも師事するなど、着実に表現の幅を広げてきた。機が熟しての録音は、芯のある美音と瑞々しい感性で紡ぎながら、力まず作品に語らせる懐の深さも見せる。経験豊富な名手、江口玲のピアノと共に、ブラームスの魅力を満喫させてくれる1枚で、特に第2番における自然体での心温まる演奏は得難い。未来の名匠の予感。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年9月号より)
【information】
CD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集(全曲)/中村太地&江口玲』
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」・第2番・第3番
中村太地(ヴァイオリン)
江口玲(ピアノ)
ビクターエンタテインメント
VICC-60956 ¥3000+税