“オーケストラ・シティ”=東京を象徴する3日間
東京はあらゆる情報がリアルタイムで入り、未来のイメージが発信されていく都市。秋のシーズンともなれば世界中の名門楽団が連日連夜ゴージャスな舞台を繰り広げる。一方、国内勢もレベルを上げている。
この世界都市のクラシック音楽動向を効率よく俯瞰したければ、NHK音楽祭がお勧めだ。2003年に始まり、毎回一つのテーマのもとに旬の指揮者やオケが登場する。今年は「伝統と革新」をテーマにアジア、ヨーロッパ、アメリカの3地域のトップ・オケ、話題のオケがラインナップされた。
コープマン&N響で聴く「モツレク」
アジア代表は日本のオーケストラシーンを牽引するNHK交響楽団。指揮者の意図を軽やかに、鮮やかに実現する機能美には、近年ますます磨きがかかっている。今年は20世紀後半の古楽復興運動の第一人者トン・コープマンを指揮に迎え、オール・モーツァルト・プログラムを披露。
コープマンは2年前にN響定期に初登場した折にもモーツァルトで高い評価を得ているが、今回は交響曲第40番と「レクイエム」を組み合わせた。ソリストには古楽分野での実績を持ち、マエストロからも信頼が厚い歌手を結集、合唱には強力な歌唱を一丸となって聴かせる新国立劇場合唱団を起用。モーツァルトの短調の音楽では、特別に内面的なパッションが表現されると言われるが、ベストな布陣でここにどう切り込んでいくか。
チェコ・フィルのソリストには樫本大進が登場
東欧の名門チェコ・フィルハーモニー管弦楽団は、チェコ音楽の権威イルジー・ビエロフラーヴェクが首席に返り咲いてから目覚ましい躍進を遂げた。志半ばで急逝したこの前任者の後を昨秋より引き継いだのが、濃厚なスラヴ系を得意とするセミヨン・ビシュコフ。意外な形で誕生したコンビだが、成り行き次第ではヨーロッパの音楽シーンの目玉になるかもしれない。
チャイコフスキーの抒情を歌い上げる今回のプログラムは、先行きを占うにはうってつけだ。交響曲「マンフレッド」は第4番と第5番の超人気交響曲の間に作曲されたバイロンの詩に基づく作品で、演奏頻度こそ多くはないが、描写力・ダイナミズムはまさに円熟期のチャイコフスキーならでは。前半の協奏曲でヴァイオリン・ソロを務めるのは樫本大進。ベルリン・フィルのコンマスとしての年輪も加わり、スケールの大きな演奏を聴かせてくれるだろう。
輝かしいフィラデルフィア・サウンドで「新世界」を堪能
トリを飾るのはオーケストラ大国アメリカのビック5の一角を占めるフィラデルフィア管弦楽団。リーマン・ショックのあおりを受けての破産という危機からV字回復を果たしたが、その立役者が現音楽監督のヤニック・ネゼ=セガンだ。舞台上でオーケストラと自在にコミュニケートし当意即妙の音楽を織り上げていく、その以心伝心ぶりには目を見張らされる。ネゼ=セガンのマジカルなタクトが、輝かしいフィラデルフィア・サウンドで描くドヴォルザーク「新世界」やいかに。
ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」のソリストを務めるのは、史上最年少でヴァン・クライバーン国際コンクールに優勝したハオチェン・チャン。ラフマニノフも客演したことで知られる同団を相手に、国際的な舞台で躍進を遂げる若手がどんな活躍を見せるのだろう。
危機を乗り越えるのは革新の力。絶え間ない革新の営みによって築かれるものが伝統だ。今年のNHK音楽祭で、それを実感してほしい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年8月号より)
2019.10/10(木)19:00 NHK交響楽団
10/25(金)19:00 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
11/7(木)15:00 フィラデルフィア管弦楽団
NHKホール
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