サントリーホール サマーフェスティバル2019

現代オペラの最高峰《リトゥン・オン・スキン》日本初演!


 サントリーホールの夏の風物詩、サマーフェスティバルが今年も8月下旬に開かれる。ホール自ら「圧倒的ナナメ上」と銘打つように、挑戦的なプログラミングで音楽ファンの目を惹くものばかり。まずは「テーマ作曲家」としてスイスのミカエル・ジャレルを迎え、彼の管弦楽曲から室内楽まで、大ホールとブルーローズの2つを駆使して演奏を展開するという(8/25,8/26,8/30)。続いて、フェスティバルの最終日には、恒例の芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会を開催(8/31)。こちらは、50周年を迎えたサントリー芸術財団からの委嘱作、チェロとオーケストラのための「雲の記憶」(茂木宏文)の世界初演に続いて、今年度の候補となった3人の作曲家──稲森安太己、北爪裕道、鈴木治行──の作品をそれぞれ演奏。受賞作が決定されるという運びになっている。

衝撃的なストーリーと静謐な音楽

 そして、今回のサマーフェスティバルの目玉となるのが、「大野和士がひらく」と題した一連のステージ。日本が誇る名指揮者、大野和士が自らプロデューサーとして選んだ、5人の現代作曲家による室内楽曲の演奏会(8/24)を設けているが、それと共に注目されるのが、21世紀の作ながら、いまや「現代オペラの最高峰」として評価を確立した一作、歌劇《リトゥン・オン・スキン(Written on Skin)》の日本初演である(セミ・ステージ形式)(8/28,8/29)。
 本作の世界初演は2012年。13世紀の南仏プロヴァンスの物語をもとに、台本作家マーティン・クリンプがリブレットを執筆、英国の作曲家ジョージ・ベンジャミンが音をつけている。ドラマは、絵の才能を認められた少年が、裕福な領主、プロテクター(アンドルー・シュレーダー)と彼に服従する妻アニエス(スザンヌ・エルマーク)のもとに写本彩飾師として招かれるが、この少年の存在が、妻の夫に対する反抗心を焚きつけた結果、彼女は少年を誘惑、自分の意のままに彼を動かそうとする。すると、妻のその行動が夫の暴力性を煽ってしまい、彼はなんと少年を殺害。その心臓を妻に与えてしまうというショッキングなものである。800年前の物語とは思えぬほどに、獣的で野蛮な要素を孕んでいるが、ベンジャミンの音作りはオーケストラ(東京都交響楽団)を60名に抑え、グラス・ハーモニカやバス・ヴィオラ・ダ・ガンバも登用しつつ、繊細で静的な響きを聴かせている。

“いまを生きる”作曲家のオペラを聴いてほしい

 まず、指揮台に立つ大野は、本作への印象を、「大きく言うと、現代の《トリスタンとイゾルデ》です。夫と妻と少年の愛憎が織りなす官能的な一作なんですよ。少ない弦楽器と強烈な管楽器で、音をちりばめた宝石箱のようなオペラになっていますので、海外で上演を重ねる現代の古典としても、この機にぜひご鑑賞いただければと思います」と熱く語る。続いて、主役の少年&第1の天使(大野曰く「堕天使」)を演じるカウンターテナー、藤木大地は「楽譜を読むと、声にヘルシーに書かれた音楽だなと実感します。僕が演じる2役は、水面下で繋がっていて、まずは天使が少年に転生し、最終的に殺されてまた天使になるという流れなんです。天使といっても神の良き使いではなく、人間界をただ俯瞰し、世の中を縁取るようなキャラクターです。なお、少年は若すぎて性的に未熟だからか、自分の雇い主の妻だけでなく、夫にも迫ってゆくという一筋縄ではいかない役柄です。今回はセミ・ステージ形式の上演ですが、針生康さんの舞台美術が入るので今から仕上がりが楽しみです。現代音楽は難しいと言われがちですが、僕が目指すのは、自分と共に『いまを生きる作曲家』の音楽を楽しみながら歌いたいということ。ぜひ足を運んでいただければと思います!」
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2019年8月号より)

サントリーホール サマーフェスティバル2019
〜サントリー芸術財団50周年記念〜
◎ザ・プロデューサー・シリーズ 大野和士がひらく
◎テーマ作曲家〈ミカエル・ジャレル〉
◎第29回 芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会
2019.8/23(金)〜8/31(土) サントリーホール 大ホール、ブルーローズ(小)
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017 
https://suntory.jp/HALL/
※各演目の開演時間や詳細などは上記ウェブサイトでご確認ください。

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