美しい小品とバッハの無伴奏をツアーで披露
2007年のデビューから12年。昨年7月には初となる全編クラシックのアルバム『classique(クラシーク)』をリリースし、自身の音楽表現を深めているヴァイオリニストの宮本笑里。今年10月から11月にかけては全国5ヵ所を巡るリサイタルツアーが予定されている。親しみのあるヴァイオリンの名曲を中心としたプログラムで、共演はアルバムと同じくピアニストの佐藤卓史。
「昨年アルバムをリリースしてから、佐藤さんとの共演で2回のツアーをしました。1回目はアルバムの世界観をそのまま表現した全曲クラシックのリサイタル、2回目はブラームスのソナタ第3番に挑戦しつつ、クラシック以外の曲も1、2曲入れて。秋のツアーでは、バッハの無伴奏作品に取り組んでみたいと思っています」
ここ数年は、クライスラーやイザイの無伴奏作品をリサイタルのプログラムに入れているという宮本。今回はバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番よりアダージョが予定されている。
「この曲を弾くと指が“起きてくる”感じがするので、毎朝の練習や本番直前に弾いています。ただ、練習でどんなに良く仕上がっていても、いざ人前で演奏するとキュッと筋肉が固まって緊張してしまうのが無伴奏の怖いところですね。ステージでひとりきりですから。バッハの無伴奏には本当にさまざまな解釈があると思いますが、自分らしい音の鳴らし方を模索しつつ、時代様式から逸れすぎないよう心がけています。たとえばヴィブラートにしても、どのぐらいかけるのがいいのか、そのバランスが難しいですね」
もうひとつ、プログラムの軸となっているヴィターリの「シャコンヌ」も、宮本にとって思い出の曲だという。
「ドイツで過ごした中学生時代、インターナショナルスクールに通っていたのですが、最初は英語も分からず、まわりとのコミュニケーションがとれない日々でした。そんなあるとき、先生に朝礼で“笑里、ヴァイオリンをやっているなら弾いてごらん”と言われ、みんなの前でこの曲を弾いたんです。そうしたら途端に同級生たちが話しかけてくれるようになり、仲良くなることができました。私は自分の想いを言葉にするのがすごく苦手だったので、音楽で伝えられるんだ! と実感した瞬間でした」
数回のツアーを経て、より固いものとなった佐藤とのタッグも聴きものだ。
「『愛の喜び』などのクライスラーの小品は、じつは表現するのがとても難しい曲。佐藤さんの軽やかなウィーン風のピアノのおかげで、楽しみながら弾くことができています。同い年なのに思わず敬語で話してしまう“先生キャラ”ですが(笑)、本当に素晴らしいピアニストです」
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2019年7月号より)
宮本笑里 リサイタルツアー2019
2019.10/5(土)18:00 名古屋/宗次ホール(052-265-1718)
10/12(土)14:00 紀尾井ホール(イベントインフォメーション0570-550-890)
10/14(月・祝)14:00 大阪/ザ・フェニックスホール(キョードーインフォメーション0570-200-888)
10/25(金)19:00 山形県郷土館 文翔館議場ホール(023-635-5500)
11/24(日)15:00 福岡/八女市民会館おりなす八女ハーモニーホール(0943-22-5332)