川田知子(ヴァイオリン)

バッハ体験の先にテレマンが見えてきた

Photo:Yasuhisa Yoneda

 2017年にバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の全曲録音を完結させた川田知子が、この6月に昼夜一日で同曲を全曲演奏する。
「バッハの無伴奏作品は、ヴァイオリニストなら誰でも演奏しなければならない曲です。私も10歳くらいからソナタを弾き始め、コンクールなどでも演奏してきました。小さい頃から手に余る大曲でしたが、大人になるにつれて、ポリフォニー的な動きが見え、バッハが書ききれなかったバスなどを考えて弾くことにより、フレーズもより見えてきました」

 バッハ・イヤーだった2000年に小樽で全曲弾く機会があったという。
「そのときは手応えを感じていたつもりでしたが、その後、まだ分かってないと思いました。3年前の録音でも、やっぱりまだまだだと思いました。この曲は、私にとって決して完成しないものであり、一生付き合う作品だと思います。でも、レコーディングをしたから見えてきた部分もあり、今回、それを皆さまに披露しようと思います。今はバロック奏法を知っている世代が増えています。私も奏法を新しくしながら、新しい発見をしました。私の奏法は、バロックでもモダンでもなく、ハイブリッドと呼んでいます(笑)」

 そしてバッハの次に川田が録音したのは、テレマンの「無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア」である。
「マイスター・ミュージックさんから、『テレマンのファンタジアを録ってみませんか』というご提案をいただいた時に、これは面白いかもしれないと思いました。バッハのポリフォニックな音楽とは対照的に、テレマンはすごく単純ですが、自由な発想で12曲がいろいろな調で書かれていて、弾いても聴いても面白いのです。後の時代のファンタジー(幻想曲)とは違う意味合いです。チェンバロの中野振一郎さんにもアドバイスをもらって、楽譜にないこともしています(笑)。単音で書かれているので通奏低音の想像力と響きが必要になります。シンプルですが美しく、ヴァイオリン弾きだったテレマンならではのユーモアもあります。バッハを録音したからこそ、これだけ手応えがあるテレマンを収録できたのだと思います」

 マイスター・ミュージックは最近、現時点で最高レベルのハイレゾ録音「DXD384KHzレコーディング」を開始した。
「音が素晴らしく、編集の段階から、自分の音がまったく違和感なく聞こえました。良い音で良いものができました。ぜひ、聴いていただきたいですね」
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ2019年6月号より)

川田知子 バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ & パルティータ全曲演奏会
昼:ソナタ第1番、パルティータ第1番、ソナタ第2番
夜:パルティータ第3番、ソナタ第3番、パルティータ第2番
2019.6/15(土) 昼公演15:00 夜公演18:00 東京文化会館(小)
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp/

CD『テレマン:無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア』
マイスター・ミュージック
MM-4057 ¥3000+税
2019.5/25(土)発売