トリトン晴れた海のオーケストラ ベートーヴェン・チクルスⅢ & Ⅳ

指揮者なしで作り上げる“新しきベートーヴェン像”

©大窪道治

 2020年に生誕250年を迎えるベートーヴェン。この数十年、様々なスタイルや解釈のパフォーマンスが出現し続けていて、名指揮者が名門団体と作る演奏も多様化しているが、いま最も熱いのは室内オーケストラによる交響曲演奏ではないだろうか。小・中編成では奏者一人ひとりの自発性が何より必要であり、その意欲はそのままベートーヴェン作品の強烈な表現力につながる。そして、日本でその最先端の挑戦を続けているのが、東京都交響楽団コンサートマスターの矢部達哉がリーダーを務める「トリトン晴れた海のオーケストラ」である。

 晴海のトリトンスクエアにある第一生命ホールは、室内オーケストラにとって理想的な音響をもつ。そこを本拠地とする同団は、名手たちが集い15年に結成され、18年からは記念年での全9曲完奏を目指してベートーヴェンに取り組んでいる。昨年は2回の公演で完成度の高い鮮烈な演奏を実現、「新しいベートーヴェン像」と称えられるほどの評判を得てきた。今年は6月に4・7番、11月に8・6番を取り上げるということで、期待がさらに高まっている。

 同団の魅力は「指揮者なし」のリスクを楽しんでいること。指揮者なしでも破綻なく合奏すること自体はアマチュアでも可能だが、彼らはその上で“いかに守りに入らず、自分たちの音楽を表現するか”という次元で音楽づくりをしている。個々人の能力と自発性を最大限まで拡大し、それをリーダーが受けとめて演奏として構築していく様は圧巻。いまという時代でこそ出会えるベートーヴェンだ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年3月号より)

ベートーヴェン・チクルスⅢ 2019.6/29(土)14:00
ベートーヴェン・チクルスⅣ 2019.11/30(土)14:00
第一生命ホール 
2019.2/27(水)発売
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 
https://www.triton-arts.net/