新国立劇場2019/20シーズンラインアップを発表

 新国立劇場は1月17日、2019/20シーズンラインアップを発表した。登壇者は大野和士・オペラ芸術監督、大原永子・舞踊芸術監督、小川絵梨子・演劇芸術監督。大原舞踊芸術監督は任期最後のシーズンとなる。
(2019.1/17 新国立劇場 Photo:J.Otsuka/Tokyo MDE)

ラインアップ会見より
左より:小川絵梨子・演劇芸術監督、大野和士・オペラ芸術監督、大原永子・舞踊芸術監督

 大野オペラ芸術監督2シーズン目は、新制作4演目と再演6演目を含めた10演目を上演する。また、オリンピック開催月となる20年8月に特別企画「子供オペラ」を企画。大野はこの「子供オペラ」と、オペラ夏の祭典《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(20年6月)で指揮台に立つ。20/21シーズン以降は、シーズンで基本的に2演目を指揮する予定。

【オペラ部門/新制作】
●《エウゲニ・オネーギン》
(19年10月、指揮:アンドリー・ユルケヴィチ、演出:ドミトリー・ベルトマン)
●《ドン・パスクワーレ》
(19年11月、指揮:コッラード・ロヴァーリス、演出:ステファノ・ヴィツィオーリ)
《ジュリオ・チェーザレ》
(20年4月、指揮:リナルド・アレッサンドリーニ、演出・衣裳:ロラン・ペリー)
オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World《ニュルンベルクのマイスタージンガー》
(20年6月、指揮:大野和士、演出:イェンス=ダニエル・ヘルツォーク)

【レパートリー】
●《椿姫》(19年11月/12月、指揮:イヴァン・レプシッチ、演出:ヴァンサン・ブサール)
●《ラ・ボエーム》(20年1月/2月、指揮:パオロ・カリニャーニ、演出:粟國淳)
●《セビリアの理髪師》(20年2月、指揮:アントネッロ・アッレマンディ、演出:ヨーゼフ・E.ケップリンガー)
●《コジ・ファン・トゥッテ》(20年3月、指揮:パオロ・オルミ、演出:ダミアーノ・ミキエレット)
●《ホフマン物語》(20年4月、指揮:マルコ・レトーニャ、演出:フィリップ・アルロー)
●《サロメ》(20年5月、指揮:コンスタンティン・トリンクス、演出:アウグスト・エファーディング)

●高校生のためのオペラ鑑賞教室 2019《蝶々夫人》(19年7月 新国立劇場/19年10月 ロームシアター京都)

【特別企画】
●子供オペラ(題名未定)

(20年8月、作曲:渋谷慶一郎、台本:島田雅彦、演出:小川絵梨子、指揮:大野和士)

大野和士オペラ芸術監督

 大野は新シーズンの柱として、ロシア・オペラ、バロック・オペラ、ベルカント・オペラの3つを掲げた。
 幕開けを飾るのはロシア作品、チャイコフスキーの名作《エウゲニ・オネーギン》(新制作)。ロシア・オペラのレパートリー充実と定番化を図るため、その第1弾としてドミトリー・ベルトマン演出の《エウゲニ・オネーギン》を選んだ。
「ロシア作品をやるにあたっては、やはり《エウゲニ・オネーギン》だろうと考えた。演出はモスクワにあるヘリコン・オペラの総支配人で、斬新な解釈で新風を吹き込む新鋭、ドミトリー・ベルトマン。今回の上演にあたって、ロシア現代演劇の父祖といえるスタニスラフスキーが、自ら《オネーギン》を演出した“オネーギン・ホール”と呼ばれるモスクワの美しい劇場にある4本の柱を舞台背景に使用し、二人の愛を描く新たな《オネーギン》になる」

 続くベルカント・オペラは、ドニゼッティ《ドン・パスクワーレ》(新制作)。指揮はコッラード・ロヴァーリス。演出はステファノ・ヴィツィオーリで、1994年にミラノ・スカラ座で初演し、その後トリエステ歌劇場などで上演されたプロダクション。ノリーナ役には、同劇場初登場となるダニエル・ドゥ・ニースを起用する。大野は「気品があり、あたたかい声と人間性をもった歌手で、彼女がいるだけで劇場全体の雰囲気が変わってしまう稀有な才能を持った世界的スター」と絶賛する。本プロダクションは今回上演権を取得し、今後レパートリーとして上演される予定だ。

大野和士オペラ芸術監督

 大野は芸術監督就任にあたり挙げた5つの目標のうち、ダブル・ビルと並んで1シーズンおきにバロック・オペラの新制作上演を掲げていた。その第1弾として、パリ・オペラ座で成功をおさめた、ロラン・ペリー演出のヘンデルの《ジュリオ・チェーザレ》(新制作)を上演する。指揮はバロック・オペラの巨匠リナルド・アレッサンドリーニ。出演はチェーザレ役にアイタージュ・シュカリザーダ、クレオパトラ役にミア・パーション、トロメーオ役に藤木大地を配し、大野は「《チェーザレ》を上演するにはこの3役の歌手が揃うことが重要で、キャスティングにはこだわった」という。今回は、「祝祭の意味も込めて(大野)」、エジプトの博物館の倉庫を舞台とし、巨大な彫像や絵画など豪華な舞台の本プロダクションをレンタル上演する。バロック・オペラ第2弾以降は新制作の方針だ。

 「オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World」として上演される《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(新制作)は東京文化会館、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場の共同制作で、大野自身がタクトをとる。演出は映画監督のヴェルナー・ヘルツォークを父に持つ、将来を嘱望されているイェンス=ダニエル・ヘルツォーク。ベックメッサー役のアドリアン・エレートは、新国立劇場だけでなく、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場にも出演する。大野は「世界の劇場との共同制作がこのような形で実現し嬉しい」と語った。

 このほか、オリンピック開催月となる20年8月に、特別企画「子供オペラ」を上演する。作曲は初音ミク主演によるボーカロイド・オペラ《THE END》を手がけた渋谷慶一郎、台本は大野とも親交の深い島田雅彦を起用。演出は小川絵梨子・演劇芸術監督が担当し、指揮台には大野が立つ。舞台上にいま開発中の最先端AIロボット、100名の子ども合唱隊、新国立劇場バレエ団が出演。新国立劇場初となるオペラ、舞踊、演劇の3部門による合作の新作オペラとなる。大野は「新しいオペラのあり方、未来のオペラ展望としての意味で実験的な作品」であるとした。

 レパートリー作品について大野は、演目ごとにもっとも適したアーティストを選んだとしている。特に大野から名前が挙がったのは、《椿姫》ジェルモン役の須藤慎吾、《ラ・ボエーム》ミミ役のニーノ・マチャイゼ、《セビリアの理髪師》ロジーナ役の脇園彩、《コジ・ファン・トゥッテ》フィオルディリージ役のエレオノーラ・ブラット、《ホフマン物語》ロールデビューとなるステファン・ポップ。指揮者についても「特に質にこだわり交渉した。指揮者の選定は今後も注視したい」と今後の展望についても語った。

大原永子舞踊芸術監督

 続いて、大原永子舞踊芸術監督が自身ラストシーズンとなる19/20シーズンのバレエ&ダンス部門の演目を発表した。大原が「これまでのバレエ団の総決算」と語るラインアップは、レパートリー演目が中心となるバレエ6演目と、ダンス3演目。シーズンはケネス・マクミラン振付『ロメオとジュリエット』で幕を開ける。

【バレエ】
●『ロメオとジュリエット』
(19年10月、振付:ケネス・マクミラン)
●『くるみ割り人形』(19年12月、振付:ウエイン・イーグリング)
●『ニューイヤー・バレエ』(20年1月)
●『マノン』(20年2月/3月、振付:ケネス・マクミラン)
●『ドン・キホーテ』(20年5月、振付:マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴルスキー 改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ)
●『不思議の国のアリス』(20年6月、振付:クリストファー・ウィールドン)

●こどものためのバレエ劇場 2019『白鳥の湖』(19年7月)

【ダンス】
●中村恩恵 × 新国立劇場バレエ団『ベートーヴェン・ソナタ』
(19年11月/12月)
●新国立劇場バレエ団『DANCE to the Future 2020』(20年3月)
●小野寺修二 カンパニーデラシネラ『ふしぎの国のアリス』(20年6月)

 大原は14年の監督就任当初からドラマティックバレエの上演を目標に挙げてきたが、『ロメオとジュリエット』は技術・演技力・表現力すべてが必要とされるドラマティックバレエの大作。「バレエ団の力の底上げにつながるチャレンジングな作品。マクミランの作品を上演できるカンパニーは世界でも限られており、そういう意味でバレエ団が国際的な名作を上演できる実力がついた」と話す。
 その他、マクミラン作品として代表作『マノン』、17年に初演し3年連続の上演となるイーグリング振付『くるみ割り人形』、16年以来の上演で「幅広いキャスティングでダンサーにチャンスをあげたい(大原)」と語った『ドン・キホーテ』、恒例となったニューイヤー・バレエでは、『不思議の国のアリス』の振付家クリストファー・ウィールドンの『DGV』を初演。本作は、フランス高速鉄道TGVのパリ/リール線開通記念に委嘱されたもので、旅をテーマとしている。
 シーズン最後には、昨年上演し大好評を博した『不思議の国のアリス』を再演。このほか、20年7月に森山開次振付で日本を題材にした作品を上演することも発表された。

 大原舞踊芸術監督は、1999年に新国立劇場バレエ団のバレエミストレスに就任して以来、監督補、芸術監督として20年余にわたりバレエ団にかかわってきた。最後のシーズンラインアップ発表会を迎え、「新国立劇場での経験は素晴らしいものでした。自分なりにここまで来られて安心している。劇場、バレエ、オペラ、演劇ともっと成長し根付き、素晴らしいものになればと願っています。次期芸術監督の吉田都さんは経験と能力のある方で、信頼しています。今までバレエ団が積み上げてきたものを崩さずに彼女なりのアングルでやってほしい。いまは残された期間を頑張ります」と語った。

 演劇部門では、19年10月から12月にかけて“個人”と“全体”を切り口としたシリーズ「ことぜん」を上演。また、小川芸術監督が切望していたイギリス・ロイヤルコート劇場と協働が決まり、第一線で活躍している演出家が3回ほど来日、1年かけて劇作家ワークショップを行う。

 なお、1月31日に中劇場において一般を対象とした大野和士オペラ芸術監督による2019/2020シーズン演目説明会 & オペラ《紫苑物語》関連イベントが開催される(入場無料・事前申込み不要)。詳細は後日発表。


●新国立劇場 
https://www.nntt.jac.go.jp/
●オペラ 2019/2020シーズンラインアップ 
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_013296.html
●バレエ&ダンス 2019/2020シーズンラインアップ 
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_013294.html

●演劇 2019/2020シーズンラインアップ 
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_014284.html