エディタ・グルベローヴァ(ソプラノ)

コロラトゥーラの女王、その偉業の集大成を聴く

C)lukasbeck
 数年前、記者会見の席に現れたエディタ・グルベローヴァは、華やかさと率直さを併せ持つといった、「器の大きいプリマドンナ」であった。オペラ・デビューが1968年というから、今年で実に半世紀、彼女は歌い続けてきたのである。
 このとき、筆者は一つ質問を行った。「ベルカント・オペラで数々の業績を打ち立てられた貴女は、作曲家ごとの個性をどのように表現されますか?」。グルベローヴァは熱心に話してくれたが、一点面白かったのは古典派のロッシーニについて。「私の声だと、シャンパンの泡のように軽やかに表現できるのよ」──世紀の大ソプラノはあっさりそう答えて、にこやかに口を閉じたのだ。
 この10月、最後の来日公演を行うグルベローヴァ。プログラムには、ロッシーニの《セビリアの理髪師》の名アリア〈今の歌声は〉が入っている。このオペラは、実は、50年前の彼女がデビューを飾った一作でもある。それだけに、グラスの中で湧き出る気泡のごとく、とびきりの声音が爽やかに放たれる瞬間に期待してみたい。
 なお、今回はJ.シュトラウスⅡのワルツ「春の声」や、フランスのトマ《ハムレット》の〈狂乱の場〉も歌うとのこと。前者の流麗な音運びとは対照的に、後者の大アリアは、錯乱したヒロインが声で心を切り裂いてゆく難曲である。キャリアの締め括りにこうした大曲を選ぶのも、大芸術家の挑戦心のなせる業。名花の声の輝きがいきなり倍増する瞬間を、今から心待ちにしている。共演はペーター・ヴァレントヴィッチ(指揮・ピアノ)、東京フィル。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年10月号より)

奇跡のソプラノ エディタ・グルベローヴァ 日本最後のリサイタル
2018.10/24(水)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
2018.10/28(日)14:00 サントリーホール
問:楽天チケット/コンサート・ドアーズ03-6628-5416  
http://www.concertdoors.com/

他公演
2018.10/16(火)大阪/ザ・シンフォニーホール(キョードーインフォメーション0570-200-888)
2018.10/20(土)埼玉/ソニックシティ(ソニックシティチケットポート048-647-4001)
※演目と共演者は公演によって異なります。詳細は各問い合わせ先でご確認ください。