ぽつりぽつりと置かれるリズムに奇妙な節回しを乗せたバッハのパルティータに始まり、小さな鐘の共鳴(ナッセン)や日本的な情緒を宿した煌めき(増本伎共子)が続く。激しくごつごつとしたテクスチュア(高橋、ヴィヴィエ)には、シンプルな点描風景(石田秀実)が対比される。響きの万華鏡が過ぎていった後のチマローザは、しみじみと美しい。これだけばらばらなものを一定の呼吸でまとめてしまうあたりは、ベテランの技。が、そろそろ80歳になるというのに、冒頭のバッハの不穏さからして単なる枯淡にとどまるつもりなどないのも明らかだ。静かなる前衛ぶりにすっかり嬉しくなった。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年8月号より)
【information】
CD『余韻と手移り/高橋悠治』
J.S.バッハ:パルティータ ハ短調BWV997/ナッセン:祈りの鐘素描 ―武満 徹 追悼―/増本伎共子:連歌/高橋悠治:荒地花笠/ヴィヴィエ:ピアノフォルテ/石田秀実:ミュージック・オブ・グラスⅠ〜Ⅲ/チマローザ:ソナタ イ短調C.55 他
高橋悠治(ピアノ)
収録:2018年3月、浜離宮朝日ホール(ライヴ)他
マイスター・ミュージック
MM-4035 ¥3000+税