自在なピアニズムで紡ぐ音の小宇宙と神秘和音
ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの優勝後、浜離宮朝日ホールでリストの超絶技巧練習曲集全曲を奏でたのは、すでに5年前。ヴァディム・ホロデンコは、その後も日本を含め世界各国で演奏活動を繰り広げている。クライバーンの前に優勝した仙台国際コンクールでは、19年に開催される同コンクールの審査員にも抜擢された。そのホロデンコが、再び浜離宮でリサイタルを行う。
「このホールで、私自身がとても気に入っているプログラムをお届けできることが嬉しくてたまりません」と心境を語る。そのプログラムとは、ラフマニノフ「前奏曲 嬰ハ短調『鐘』」で幕を開け、「前奏曲集op.23」「同op.32」からの抜粋、そしてショパン「練習曲op.25」全曲で締めくくられるという、大曲ではなく“小宇宙”を次々と提示するものだ。
「ラフマニノフとショパンの小品について、ここで私が短くシンプルな言葉で言い表そうとすれば、その音楽的な価値を貶めてしまうことになるでしょう。逆に真剣に語り出してしまうと、インタビューの枠ではとても収めることができそうにありません。ですから私は、愛する聴衆の皆さんにはご自身の自由なイマジネーションで私の演奏をお楽しみいただきたいと思っています」
ラフマニノフとショパンの作品の間には、スクリャービンのソナタ第5番を聴かせる。このソナタも単一楽章であり決して長大な作品ではないが、神秘和音を用いたスクリャービン特有の響きに満ちている。
「スクリャービンの音楽との出会いは、ここ数年の私にとって非常に大きな発見でした。このコンサート後には、新しく録音したばかりのスクリャービンのCDをお届けできると思います」
今回のコンサートでも、ホロデンコが愛して止まないファツィオリのピアノを使用する。自宅で毎日触れるファツィオリは、ホロデンコにとって「無限のパレット」だという。
「美しい音色で人を喜ばせることだけが、ピアノの使命ではありません。時に語ることもできるし、時に泣くこともできる。そんな様々な表現をステージで可能にしてくれるのが、ファツィオリのピアノなのです」
1986年生まれのホロデンコは今年32歳。
「音楽作品を言葉ではなかなか言い表せないのと同様に、私自身のキャリアについて自分で評価することは難しいですが、たとえばロシア音楽に自分を限定させることなく、ショパン、ベートーヴェン、ラヴェルや現代曲など、今後も幅広いレパートリーに取り組んでいきたいと思っています」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年6月号より)
ヴァディム・ホロデンコ ピアノ・リサイタル
2018.6/26(火)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/