耳を澄まして未知の世界へ意志を向ける
現代音楽シーンをリードするアンサンブル・ノマドが、「超える」と題したシリーズをスタートさせる。ノマドとは広野を移動する遊牧民のことだから、「超える」は彼らのアイデンティティの根幹をなす概念といえよう。今回のサブタイトルは「外へ向かって」だが、「難解な作品にじっと耳を澄まし、自分の限界を超え、未知の世界へと意志を向ける」という宣言は、亀裂や矛盾が噴出するグローバリゼーションの時代だからこそ、いっそうまぶしい。
コンサートは前衛の時代の西ドイツに学び高く評価されながら早世した甲斐説宗「ヴァイオリンとピアノのための音楽’67」ではじまる。日本の美学を創作に反映させるロバート・コバーンは、「静寂の透かし彫り」で点描風に置かれた音に耳を澄ます。孤高の長老・湯浅譲二からは「弦楽四重奏のためのプロジェクション」。パリで学んだホセ・マヌエル・ロペス・ロペスはノマドもこれまでに取り上げているが、今回は2013年の近作「暗黒物質」を。掉尾を飾るのは日本とスイスを股にかける久田典子が、『オズの魔法使い』に寄せた作品集「黄色いレンガに導かれて」より「怪物と大きな黄色い花」。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年6月号より)
2018.6/22(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165
http://www.ensemble-nomad.com/