ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト/指揮) & オルフェオ55

希代のコントラルトが魅せるバロック作品集


 女性の最も深々とした声音を聴きたければ、ナタリー・シュトゥッツマンの舞台へどうぞ。オペラでも近代の歌曲でも、歌声が放つ濃紺の光が客席を包み込むだろう。フレージングが冴えても響きは柔らかいまま。「別格の天然の美声」ゆえの資質である。
 一方、今のシュトゥッツマンには、もう一つの顔が存在する。それが、評価急上昇中の指揮活動。彼女自身が主宰する「オルフェオ55」を率いてバロック期の作品などを演奏する傍ら、オペラの指揮台にもたびたび登壇し、昨年もワーグナーの《タンホイザー》で絶賛されたほど。インタビューした折も、「指揮者になると、自分の役がないオペラにも参加できるのよ!」と朗らかに笑っていた。
 そのシュトゥッツマンが、「オルフェオ55」と共に来日する。欧州ではいま、彼女が発掘した譜面に基づくCD『私を燃え立たせる炎は〜オリジナル楽譜によるイタリア歌曲集』が注目されているが、今回はそこから何曲も生で聴けるのだ。スカルラッティの名曲〈陽はすでにガンジス河から〉など、既存のパリゾッティ編の音運びとあまりに違うので、声楽ファンも衝撃を受けるだろう。彼女の“掘り起こす”姿勢を通じて、ヴィヴァルディやリュリのアリアや器楽曲が新たな光を帯びるさまを体感してみてほしい。
 なお、シュトゥッツマンは即興性も重視する。「急にタンバリンを入れたくなって、自分で叩きながら振ったこともあるの」と語っていた。だから、当日はアンコールも聴き逃せないだろう。今回日本で一度きりの公演、格別の熱気をお楽しみに!
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年5月号より)

2018.5/15(火)19:00 紀尾井ホール
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