マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ)

至高のピアニスト、日本最後のステージ

C)Felix Brode/Deutsche Grammophon
 マリア・ジョアン・ピリスの演奏は祈りを思い起こさせる。見栄や虚飾を排し淡々と、しかし音楽に真摯に向かい合う姿勢に、やがて会場の空気までが澄み切ってくるような気分になる。そして美しく彫琢された音が紡ぎだす旋律に乗って、私たちも高みへと連れていかれる。こんな体験をさせてくれるピアニストは他にいない。やはり唯一無二だ。
 大の親日家のピリスが初来日したのは1969年、半世紀近くが過ぎた。2018年をもって引退ということなので、4月の来日公演が実演を聴く最後の機会となる。残念だ。が、多くの名演を届けてくれただけでなく、マスタークラスやテレビ番組を通じ、音楽の伝道師となってくれたことに感謝せねばなるまい。
 東京公演は2プログラム。4月12日はベートーヴェンの「悲愴」で重々しく始まった後、シューベルト(3つのピアノ曲 D946)の無垢な旋律が会場を羽ばたく。後半は再びベートーヴェンの最後のソナタ、第32番。天界に昇っていくような浄化された結尾は、彼女の最後の来日公演にふさわしい。4月17日はモーツァルトのピアノ・ソナタ第12番・第13番。メロディも構造もシンプルなこういう曲でこそ、ピリスのピュアな音楽性がにじみでる。後半はメロディ・メーカーとしてのシューベルトの魅力がたっぷりと味わえる「4つの即興曲 D935」。
 テクニカルな曲や派手な曲ではなく、全体に簡素でしっとりと、そして最後には清々しく晴れやかな気分になる作品を選んでいるあたりに、ピアニストとしての最後の時を迎えている彼女の胸のうちが表れているように思う。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年2月号より)

2018.4/12(木)、4/17(火)各日19:00 サントリーホール 
2018.1/20(土)発売
問:ミュージックプラント03-3466-2258 
http://www.mplant.co.jp/