モーツァルトの奇蹟の10年間にフォーカスする
日本有数の湯治場として知られる群馬・草津温泉を舞台に、講習会とコンサートからなる我が国で初の夏の音楽祭として、1980年に始まった「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」。38回目となる今回も、ウェルナー・ヒンク(ヴァイオリン)やトーマス・インデアミューレ(オーボエ)、カール=ハインツ・シュッツ(フルート)ら世界的名手が集結、期間中は17のコンサートや公開レッスンが行われ、湯の街は音楽の響きに包まれる。
今回は「モーツァルトの奇蹟〜過ぎゆく時を超えて」がテーマ。“神童”が25歳から亡くなるまでの10年間(1781年〜91年)に焦点を当て、周辺の音楽家も交えつつ、立体的に捉えてゆく。
まずは、この音楽祭の“常連”である、チェコの名人集団・パノハ弦楽四重奏団のステージ。弦楽四重奏曲第15番や、やはりチェコ出身の新星ホルニスト、カテジナ・ヤヴールコヴァーを迎えてのホルン五重奏曲などモーツァルトに、ハイドンの「ロシア四重奏曲第6番」を交え、深遠なる室内楽の世界へ誘う(8/18)。
そして、矢崎彦太郎の指揮、ヒンクがコンサートマスターを務める草津フェスティヴァル・オーケストラと草津アカデミー合唱団は、天羽明惠(ソプラノ)や日野妙果(アルト)、小貫岩夫(テノール)、太田直樹(バス)と豪華ソリストを迎えて、モーツァルトの「レクイエム」(ロビンズ・ランドン版)を軸に上演する。ここでは、ヨーゼフ・ハイドンの弟ミヒャエルによる未完の「レクイエム 変ロ長調」が本邦初演されるのも話題に。これは、比較的有名な「レクイエム ハ短調」とは別作品で、作曲者自身の葬儀で初演された(8/20)。
さらに、澄み切った歌声を武器に、スカラ座などオペラの檜舞台の一方、古楽でも大活躍して話題のジェンマ・ベルタニョッリ(ソプラノ)も登場。アントニー・シピリ(ピアノ)との共演での「すみれ」など小さな宝石のようなリートから、親友の女性歌手との別れを惜しんでしたためられたとも言われる「どうしてあなたが忘れられましょう〜心配しないで、愛する人よ」など、オルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャによる管弦楽伴奏を伴う滋味深いレチタティーヴォとアリアまで、彩り豊かにモーツァルトの声楽作品を歌い尽くす(8/23)。
一方、インデアミューレや、ヤヴールコヴァーに、ベルリン交響楽団などで活躍した四戸世紀(クラリネット)、バイエルン国立管弦楽団首席コンマスのマルクス・ヴォルフ(ヴァイオリン)、パノハ弦楽四重奏団と名手が勢揃いするステージも要注目。ピアノと管楽器のための五重奏曲やピアノ三重奏曲第6番、シューベルト家での私的なサロン・コンサートのために弦楽五重奏へ編曲された交響曲第38番「プラハ」からの抜粋など、モーツァルトの室内楽の多彩な味わいを愉しむ(8/28)。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2017年8月号より)
2017.8/17(木)〜 8/30(水) 草津音楽の森国際コンサートホール 他
問:草津夏期国際音楽アカデミー事務局03-5790-5561
http://kusa2.jp/