ナタリー・デセイ(ソプラノ)&フィリップ・カサール(ピアノ)

女性たちの心模様を鮮やかに描く

©Marc Ribes licensed to Virgin Classics
 数年前にオペラの舞台から離れ、いまはコンサートに専念するソプラノ、ナタリー・デセイ。「歌劇場のお仕事は拘束が長いから。年齢も重ねたし…」とインタビューで答えていたが、その裏には「家族と過ごす時間を取りたい」という強い願望があったよう。初来日の折に、「息子と娘がいるので、子育てに体力が要るの」と呟いた彼女の、優しい笑顔が今も忘れられずにいる。
 さて、この4月、デセイが待望の来日リサイタルを、ピアノのフィリップ・カサールと共に開催する。プログラムで目につくのは、彼女が学生時代から熱心に学ぶドイツ語の歌曲。シューベルトがゲーテの詩に曲をつけた〈ズライカⅠ〉や〈糸を紡ぐグレートヒェン〉では、恋に震える娘心が様々な声音で表現されるはず。また、20世紀のプフィッツナーの珍しい「古い歌」全8曲も注目の的である。15分もかからない短い歌曲集だが、恋心が素直にはじけるものから、ユーモラスな勇ましい口調まで…。乙女の千変万化の心模様が、鮮やかな歌いぶりからくっきりと浮かび上がるに違いない。
 このほか、母国フランスの曲も歌われる予定。憂色の濃いショーソンの〈終わりなき歌〉、ドビュッシーの皮肉交じりの〈死化粧〉など、感情を繊細に歌い綴るメロディと共に、グノーの歌劇《ファウスト》の名アリア〈宝石の歌〉も披露するとのこと。予期せぬ贈り物にときめくマルグリートが、細かい音符を真珠の首飾りのように美しく繋げて、声の光沢をじんわりと放つさまに浸ってみたい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ 2017年4月号から)

4/19(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
http://www.operacity.jp/