鎮魂の想いを祈りに込めて
すみだトリフォニーホールがある一帯は、昔から住宅の密集する下町で、20世紀に2度も甚大な災害を経験している。1923年の関東大震災では、地震を何とか生き延びた住人達を紅蓮の火災旋風が襲い、45年の東京大空襲では米軍による焼夷弾が再び町を灰燼へと変えた。JR錦糸町駅前の錦糸公園は震災復興事業として作られたが、皮肉なことに45年3月10日の下町大空襲で被害者が多数埋葬される場となった。錦糸町駅からすみだトリフォニーに行く途中、ビルの合間からスカイツリーが顔を出す現在の繁栄ぶりからは想像しがたいが、地震も戦争も依然アクチュアルな時代に生きていることを忘れてなるまい。
すみだトリフォニーホール開館20周年の『すみだ平和祈念コンサート2017―すみだ×ベルリン』は、マーラーの大交響曲を通じて歴史に祈りを捧げる機会となる。まずは3月11日、トリフォニーを本拠にする新日本フィルが昨秋より音楽監督についた上岡敏之と、交響曲第6番「悲劇的」で運命のいかずちを振り落とす。東日本大震災その日の晩に、ハーディングと新日本フィルがマーラーの第5番を演奏したのは伝説的なエピソードだが、これも錦糸町という場所との因縁を感じずにはいられない。3月13日のコンサートでは、エリアフ・インバルがベルリン・コンツェルトハウス管と共にこの曲を取り上げる。イスラエル出身のインバル、旧東独圏にあったコンツェルトハウス管は、違った形であれやはり激動の20世紀を生き抜いてきた。トランペットのファンファーレは現代への警句として、甘美なるアダージェットは災いによってこの地に眠る人々への慰撫として鳴り響くだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2017年3月号から)
上岡敏之(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団 3/11(土)18:00
エリアフ・インバル(指揮) ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 3/13(月)19:00
すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
http://www.triphony.com/