新世代ピアニストが醸し出す弱音の美
ホジャイノフは、聴衆を自らの音楽世界に引き込む、特殊な魅力を持つピアニストだ。ロシア生まれの24歳。6年前、ファイナリストとなったショパン国際ピアノ・コンクールで一躍注目され、その後2012年ダブリン国際ピアノ・コンクールに優勝、同年シドニー国際ピアノ・コンクールで2位に入賞した。しかし彼の場合そうしたタイトルよりも、一度聴いたら癖になる深く繊細な音楽自体で、世界各地で着実にファンを増やしている印象がある。昨年からは長らく学んだモスクワを離れ、ハノーファー音楽大学で研鑽を積む。
今回は、ロマン派の作品を集めたプログラム。ショパンからは「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」と、ワルツ第6番「小犬」、第9番「告別」、第10番。優美な舞曲で、繊細に揺れるリズムの妙を楽しませてくれそうだ。また、ベッリーニのオペラ《清教徒》からの主題に基づき6人の作曲家が合作した「ヘクサメロン変奏曲」は、実演を聴く機会の少ない作品。リストによる序奏と主題に続く、タールベルク、チェルニー、ショパンなど19世紀に活躍した作曲家の手による変奏曲を、ホジャイノフが鮮やかに弾き分ける。そして後半で演奏するのはシューマン。「幻想曲」では、夢と現実の間を彷徨う作曲家特有の世界観を描き出すだろう。
ロシアのピアニストらしい確かなタッチで鳴らす華やかな音も魅力だが、やはり彼の美点は、磨き抜かれた弱音と、静寂を聴かせる表現力。ピアノを聴くのにぴったりの会場で、響きをすみずみまで味わいたい。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2016年11月号から)
11/28(月)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp
他公演
11/19(土)彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール(0570-064-939)
11/20(日)大阪/いずみホール(大阪新音06-6341-0547)