横浜を舞台に温かい“想いの輪”を広げたい
ヴァイオリニストの鈴木理恵子が音楽監督を務める『ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭』が2年ぶりに開催される。鈴木が生まれ育った港町・横浜を舞台に、日本と海外の芸術交流を図る企画で、2008年の開始以来、これで5回目(10年の掛川での開催も含む)となる。
「04年頃から、中国、タイ、インドネシア、カンボジアなどに演奏旅行をする機会が増え、現地の人々と共演する中で心が通い合う経験を何度もしました。言葉ではなく、芸術を通じて時間と空間を共有することで、温かい“想いの輪”を広げたくて、この音楽祭を始めたのです」
今回は北欧の彩りを加えたり、鈴木の夫でピアニストの若林顕が出演したりと、さらなる魅力を増している。
「私も若林も、スウェーデンなど北欧での演奏経験が昔から多かったのです。彼はアジアや北欧の音楽に造詣が深く、2つの地域を繋ぐアドバイスを色々と与えてくれました。今回は北欧とクラシックの名作を中心に、インド古典劇、古典雅楽、ホーメイ(ロシア連邦トゥバ共和国に伝わる喉歌)、舞台芸術などをボーダーレスにお届けします」
2つのメイン公演の会場は、いずれも横浜みなとみらいホール(小ホール)。オープニングの『コンサートⅠ』では、美術家・松原賢の巨大かつ繊細な作品をバックに、時代も文化も異なる傑作がひとつの新しい世界を創り出す。
「9月発売の新譜の収録曲でもあるモーツァルトのソナタ『K.305』で軽やかに幕開け。その後は、武満徹さんの『悲歌』や、この音楽祭のキーマンの一人、マッツ・ヤンソンさんのピアノ・ソロ(スウェーデンの現代作曲家フロディンの『カデンツァ』の世界初演)などが続き、最後はグリーグの劇的なソナタ第3番で終わる構成です」
最終日の『コンサートⅡ』は、出演者全員によるガラ・コンサートだ。
「3部構成の公演を予定しています。第1部は、入野智江ターラさんの踊りと和楽器による『インド古典劇から笙と琵琶のいにしえの響き』。第2部は、『ケルト・北欧音楽からフランスのジャズへ』と題した音楽旅行。第3部の『フィナーレ』では、クラシックから、ホーメイの第一人者・巻上公一さん、笙、楽琵琶、松原さんの美術まで、様々な芸術が融合した饗宴を繰り広げます」
今回は他にも、鈴木と若林のデュオで「気軽にクラシック」と題した約1時間の公演(10/15 13:00 アートフォーラムあざみ野)や、「アウトリーチ」(10/15 16:00 象の鼻テラス)を開催。3日間にわたる新感覚の音楽祭を濃密に、かつ多角的に楽しみたい。
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ 2016年10月号から)
ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭 2016
コンサートⅠ 10/14(金)19:00
コンサートⅡ 10/16(日)17:00
横浜みなとみらいホール(小)
問:コンサートイマジン03-3235-3777
http://www.concert.co.jp