広上淳一(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

ユニークな企画でベルリオーズの魅力を再発見

 東京シティ・フィルのオータム・シーズンは、現在40〜50代の働き盛り世代の指揮者たちが、ベルリオーズの交響的3作品の連続上演で競う。9月は常任指揮者・高関健の指揮で大作《ファウストの劫罰》を取り上げ、シーズン・オープニングと定期300回を祝う。さらに11月に下野竜也、12月には広上淳一が登場。抜群の描写力、豪華絢爛なオーケストレーションなどベルリオーズの魅力を再発見させてくれる旅を味わえそうだ。
 「男の刹那な最期 ―ベルリオーズの失恋劇場 その②」というタイトルが付いた12月定期では、オーケストラを自分のペースへ誘い込むのがうまい広上が、ヴィオラ独奏つきの交響曲「イタリアのハロルド」を振る。これは詩人バイロンの「チャイルド・ハロルドの巡礼」に想を得たもので、オーケストラの演出する“大自然”の中を、ハロルド役のソロ・ヴィオラがさすらい、山賊に殺されるまでを描く。ベルリオーズはこの曲をパガニーニの委嘱で書き始めたが、独奏の技巧性よりも作品のテーマ性とそれを支える骨太の構成力が勝っていったために、最終的にはヴィオラ付きの交響曲となった。「幻想交響曲」を彷彿とさせる優れた情景描写に加え、夜の祈りや牧歌など豊かな楽想が詰まった隠れ名曲だ。ソロは日本を代表するヴィオリスト、川本嘉子。
 演奏会の冒頭には、同じくベルリオーズの人気曲「海賊」序曲が演奏されるが、こちらもバイロンの同名の物語詩にインスピレーションを得ている。加えて20世紀フランスを代表する作曲家プーランクのバレエ音楽「牝鹿」。若い男女の恋愛模様がテンポよく洒脱なサウンドで紡がれる。選曲の妙も楽しみたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2016年9月号から)

第302回 定期演奏会
12/10(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
http://www.cityphil.jp