外山啓介(ピアノ)

ピアニストとしての自分が自然体でいられるようになりました

©Yuji Hori

©Yuji Hori

 外山啓介がデビュー以来毎年行ってきたリサイタル・ツアーも、今年で10回目。振り返ると、転機となるプログラムがいくつもあるというが、今回はそうした転換点と今の自分を投影するような作品を取り上げる。
 例えばベートーヴェンの「月光」と「テンペスト」という選曲。これには、ここ数年で古典派作品の理解に変化が生じたことが反映している。
「古典派演奏における“こうでなくてはいけない”というルールを昔は窮屈に感じていました。でも、当時の楽器がどうであったか、それを考えたうえでぺダリングなどを研究し、枠を決めるのは自分なんだと気づいておもしろくなってきたのです。とくに『テンペスト』は、質実剛健、シンプルな音楽で伝えようとする誠実な作品で、今弾いてみたいと思って」
 併せて取り上げるのはリスト。ピアノの道に進む決心を後押ししてくれた大切な作品も披露する。
「札幌で過ごした高校時代までは、とにかく好きだという気持ちでピアノを弾いていました。それが進路を決める頃、東京芸大を目指して音楽の道に進むなんて無理なのではという考えがよぎったら、急に気持ちがピアノに向かなくなってしまって。そんなときに出会ったのが、リストの『バラード第2番』。こんなにすばらしい曲があるなんて、これを弾くまでピアノはやめられないと思いました。去年、東京都庭園美術館での演奏会に美智子皇后が来てくださった時、この曲も演奏しました。当時すごく悩んだ気持ちを思い出し、高校生の自分にいつかこんな日がくると教えてあげたいと思いましたね」
 リストへの見方も、「ロ短調ソナタ」を弾いた2014年のツアー以降変化したという。
「例えばバラード第2番では、同じモティーフがさまざまに姿を変えて現れますが、弾く自分がその一つひとつに耽溺しすぎてしまうと、全て大事件になって結果的に何も伝わりません。『イゾルデの愛の死』にもそういうところがあります。作曲家に近い目線を持てなくてはいけないのです。その意味でも、30代を迎えた今取り組んでみると楽しいです」
 ピアニストとしての意識もまた、10年で変貌した。
「デビュー当時は、ピアニストだからこうあるべきだと自分をがんじがらめにしていました。同時に、それまで言いたいことのすべてを託してきたピアノを“仕事”と捉えることがうまくできなかった。それが5年ほど前から少しずつ解決して、自然体でいられるようになりましたね」
 と、何かから解き放たれたかのような笑顔! どこまでも伸びてゆく今後の展開に期待したい。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2016年8月号から)

8/7(日)14:00 サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999
※リサイタル・ツアーの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.keisuke-toyama.com