パシフィック・ミュージック・フェスティバル 2016

北の熱いフェスティバルは、今年も充実!

 パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)は今年も魅力的な公演が満載だ。20世紀を代表する指揮者、作曲家のレナード・バーンスタインによって、1990年に札幌で創設されたPMFは、今年で27回目。中心を成すのは、世界的な音楽家による教授陣が、オーディションで選ばれた世界各地の若手を育成する「PMFアカデミー」だが、参加者たちによる演奏会(約30公演)もきわめて充実している。ここでは、その主な聴きどころをご紹介しよう。

芸術監督のゲルギエフが振るショスタコーヴィチ8番

 主軸はやはり「PMFオーケストラ」。未来ある若手奏者たちの活気漲る演奏、“同じ釜の飯を食う”ことによる一体感、そして一流指揮者によるハイクオリティの音楽が魅力の公演だ。まず芸術監督ワレリー・ゲルギエフが振る<プログラムC>では、彼のライフワークともいえるショスタコーヴィチの交響曲第8番が目を引く。同曲は、作曲者が真実の思いを込めた深く重厚な大作。エネルギー漲るゲルギエフの指揮ならば、迫真的な名演は必至だ。カップリングはメンデルスゾーンの「イタリア」交響曲。南欧の陽光とソ連の悲劇性の対比が聴きどころとなる(千歳8/4、函館8/8)。また、同プログラムの札幌(8/6,8/7)と東京(8/9)公演では2曲に加え、レオニダス・カヴァコスが弾くブラームスのヴァイオリン協奏曲も披露される。カヴァコスは卓越した技量と品格のある表現で、ヨーロッパでは最上級の評価を得ている名奏者。オーケストラも活躍するこの協奏曲では、稀有の実力者と熱いバックの共演が楽しみだ。

アクセルロッドは2プログラムを指揮

 次いで、ジョン・アクセルロッドが指揮する<プログラムA、B>。彼は、ヨーロッパにポストを持ちつつ、パリ管、シカゴ響、N響など世界各地の150以上の楽団に客演しているアメリカの名指揮者。PMF初登場の今回は、10代の頃バーンスタインから直接伝授された、濃密な音楽作りを披露する。ドビュッシーの交響詩「海」とマーラーの交響曲第4番が中心の<プログラムA>(7/23,7/24)は、近代の精緻な音の綾、ブラームスの交響曲第4番が中心の<プログラムB>(7/30,7/31)は、ドイツものの表現がポイント。違った書法をPMFオーケストラがいかに表出するか? が興味深い。またアクセルロッドは今回、若手指揮者を育成するPMFコンダクティング・アカデミーも指導し、<プログラムB>の2日目(7/31)の前半3曲は、彼の教えを受けた3人の若手指揮者が振る。これは音楽祭の趣旨に沿っている上に、未知の魅力もある。

バーンスタインへのトリビュート・コンサートも

 ダニエル・マツカワが指揮する『バーンスタイン・レガシー・コンサート』(7/27)も要注目。PMFの偉大な創設者に捧げる本公演では、バーンスタインの名作のほか、コープランドやバーバーなどゆかりの作曲家たちの作品が披露される。2000年からフィラデルフィア管の首席ファゴット奏者を務め、近年指揮にも取り組むマツカワは、アカデミー生として3回、教授として01年から16回連続参加している、同音楽祭の“顔”の一人。アカデミー生の信頼も厚いだけに、これまた熱い演奏が期待される。加えて、序曲や組曲、ミュージカルなどを集めたプログラムも、親しみやすさと楽しさに溢れている。
 このほか、教授を務めるメジャー・オーケストラのメンバーたちによる室内楽であるPMFウィーン(7/18,7/20)、PMFベルリン(7/20,7/22)、PMFアメリカ(7/29)、PMFオーケストラの<プログラムC>を含む名物公演『PMF GALAコンサート』(8/6)、『ピクニックコンサート』(8/7)もむろん見逃せないし、札幌市内などでの無料公演もあるので、気軽に足を運びたい。
 地元の方、遠征できる方は当然現地へ! 首都圏から動けないファンは、8月9日の東京公演にぜひ!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)

7/16(土)〜8/9(火)札幌、函館、苫小牧、千歳、奈井江、東京
問:パシフィック・ミュージック・フェスティバル組織委員会011-242-2211
http://www.pmf.or.jp