「戴冠式」のソリストは注目の16歳
思わぬことから若い音楽家が抜擢されることがある。10月30日、渡邊一正指揮東京フィルのサントリー定期シリーズで、当初ソリストとして予定されていた中村紘子が病気療養のため出演できなくなった。そして、その代役として白羽の矢が立てられたのが牛田智大(ともはる)。なんと、まだ16歳である。あるいは12歳くらいから彼の活動ぶりに注目している人にとっては、「もう16歳になったの!?」という驚きのほうが先に立つのかもしれない。あどけない少年「牛田くん」のイメージを抱いている方も多いだろうが、最近の写真などを見ると、好青年といった風貌にまで成長しており、時の流れの速さを感じずにはいられない。
曲はモーツァルトのピアノ協奏曲第26番ニ長調「戴冠式」。よく「モーツァルトを弾くのは子供にとっては易しく、大人にとっては難しい」などと言われるが、はたして16歳にとってのモーツァルトとは、どんな音楽なのだろうか。傑作がひしめくモーツァルトのウィーン時代のピアノ協奏曲のなかでも、とりわけ簡潔さが感じられる作品だけに、いっそう興味をひく。
メイン・プログラムはマーラーの交響曲第1番「巨人」。指揮の渡邊一正は、1996年から2015年3月まで東京フィル指揮者を務め、この4月からは同団レジデント・コンダクターに就任している。長年にわたるオーケストラとの協働によって生み出されるサウンドというものがあるはず。指揮者とオーケストラが一体となった輝かしい演奏を期待したい。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)
第871回 サントリー定期シリーズ
10/30(金)19:00 サントリーホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
http://www.tpo.or.jp