学究的な情熱に支えられたシューベルト
ピアニストの佐藤卓史が昨年4月よりスタートさせた『シューベルトツィクルス』。15年間で計30回の公演を通じ、全ピアノ曲とピアノを使用する全室内楽曲を網羅する壮大な計画だ。「ドイツ留学中にシューベルトの作品を集中して勉強し、シューベルト国際コンクールで優勝できたのをきっかけに、これからも彼の作品をどんどん弾きたいという思いが強くなった」と語る佐藤。シューベルトの自筆譜研究を丹念に行いながら作曲年代の整理などを行い、このツィクルスでその成果も披露している。
「研究により発見できたことを最終的に演奏にどう生かすか、それを考えるのは面白いプロセスです」
ツィクルス第4回のテーマは「4手のための幻想曲 I」。いよいよ連弾曲の登場だ。共演するのは現在モスクワで研鑽を積む若手実力派、佐藤彦大(ひろお)。
「彼とはヨーロッパのコンクールで知り合いました。よく気が合うし演奏も素晴らしかったので、いつか一緒に何かやりたいと思っていたのです。共演者として大切なのはシューベルトへの深い理解。彼はソナタをCDに録音していますし、その意味でも申し分ありません」
注目したいのは、シューベルトの最初の作品番号が付いた「4手のための幻想曲ト長調 D1」。
「13歳の時に書かれた意欲作で、1000小節もあります! メロディーの着想などはとてもいい。ただ、それを展開する力がまだ足りていない。そこが可愛らしいといえばそうなのですが、演奏家にとっては、音楽として魅力あるものに構築していくのが腕の見せ所。次に取り上げる『幻想曲ト短調 D9』は1年後に書いた作品ですが、より簡潔でありながら複雑な仕上がりになっています。勤勉に勉強を積んだことが伝わります」
コンサート前半は独奏曲も披露。今回は「メヌエット」(D91・D335・D334)や「エコセーズ D299」といった舞曲を取り上げる。
「シューベルトの舞曲は当時のウィーンの人々が実際に踊るために書かれたものです。通常メヌエットにはトリオ(中間部)が1つ挿入されますが、『D91』や『D335』は実用の曲なので2つ登場するところが面白いですね。ソロの最後には『幻想曲 D605』を取り上げます。この曲は未完なので途中から僕が補筆しました。この時代あたりからシューベルトは幻想曲を単一主題を有機的に扱ったソナタのように仕上げるようになりました。それを意識して補筆完成版を作りましたので、ぜひ注目していただきたいです」
学究的な情熱に支えられた姿勢に、今回も期待が膨らむ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年10月号から)
佐藤卓史 シューベルトツィクルス ピアノ曲全曲演奏会
第4回 4手のための幻想曲Ⅰ ゲスト:佐藤彦大(ピアノ)
10/29(木)19:00 東京文化会館(小)
問:アスペン03-5467-0081
http://www.aspen.jp