祝・デュオ結成50年! 澤和樹(ヴァイオリン) & 蓼沼恵美子(ピアノ)が積み重ねた円熟の対話

左:澤 和樹 ©Shigeto Imura
右:蓼沼恵美子 ©Shigeto Imura

 1976年に初めて共演、1983年にミュンヘン国際音楽コンクールのデュオ部門で第3位に入賞したヴァイオリンの澤和樹とピアノの蓼沼恵美子が、デュオ結成50周年の記念リサイタルを行う。結成のきっかけや記念リサイタルへの思いを、二人に聞いた。

 初めてデュオを組んだのは、二人が東京藝術大学音楽学部の学生のときだという。初のリサイタルを故郷・和歌山と大阪で開くことになった澤が、師の海野義雄の薦めもあり、蓼沼に声をかけたのだ。

「ところが、日本音楽コンクールのピアノ部門に挑戦するからと、あっさり断られたんです。リサイタルはコンクールの直前なので無理だと」

蓼沼「そのときは最初で最後のチャンスと思って本気でピアノ部門を受けるつもりでしたし、澤との初めての共演がリサイタルというのは荷が重すぎると思いましたから」

 それでも澤はあきらめず、蓼沼の師の田村宏に頼み込んだ。レッスンのとき蓼沼は田村から、「君はコンクールには向かんよ。澤君から共演を頼まれただろう」と言われた。

蓼沼「え、何で知ってるの?と驚きました(笑)。でも、私も学校で同期の天満敦子さんや水野佐知香さんなどと共演して、アンサンブルもとても好きでした。いずれはその方向で、と内心では思っていたので、コンクールをあきらめて、引き受けることにしたんです」

「あのとき私の人生は変わったと、いまだに言われるんです(笑)」

ロンドン留学時代、マリア・クルチョ先生と(1982年頃)

 その後二人は結婚、1980年に一緒にロンドンに留学した。同地で澤はジェルジ・パウクとベラ・カトーナ、蓼沼はマリア・クルチョという名教師についた。それぞれの先生から、デュオとして教えを受けた。

「ヴァイオリンとピアノの二重奏としての本来のあり方を学びました。作曲家もヴァイオリン・ソナタではなく、ピアノとヴァイオリンのためのソナタと、ピアノを先にしている。だから私たちのデュオ・リサイタルでは、ヴァイオリン・ソナタという書きかたをしません」

 ロンドンでデュオの魅力と価値を学んだことは、その後の演奏活動の大きな柱となっただけでなく、教育者として後進を育てる上でも、大きな意味を持つことになった。

 演奏に集中できる大好きなホールという、東京文化会館小ホールでの今回の曲目のうち、ベートーヴェンとプロコフィエフのソナタはミュンヘンのコンクール時の課題曲。またシューベルトの幻想曲は澤がロンドンでパウクの演奏を聴いて感動し、デュオとして教えを受けた、思い出の曲である。

「幸田延のソナタだけは昨年からレパートリーに加えたものです。日本の西洋音楽の黎明期に書かれた、本当にすてきな曲です」

蓼沼「日本人的にちょっと控えめな、でもすごく温かい、親しみやすさを感じる曲ですね」

 50年積み重ねたからこそ、可能になるデュオの表現がある。

蓼沼「若い頃のようにいかないことももちろん出てきますが、この年齢にならないとできないもの、昔わからなかったことがわかる瞬間が嬉しくて、演奏を続けています。その変遷をお客様に聴いていただけたら嬉しいです」

「私の場合、弦楽四重奏や指揮をすることで得たものもありますし、私生活で2人の孫と接することで(笑)、感じかたや表現のしかたが変わってきていると思います。人生そのものが表れるような演奏ができればと思います」

取材・文:山崎浩太郎

(ぶらあぼ2026年4月号より)

澤 和樹 & 蓼沼恵美子 デュオ結成50周年記念リサイタル
2026.4/22(水)19:00 東京文化会館(小)
問:MAE 070-8996-7469 
https://maandengagement.wixsite.com/website

他公演
2026.4/11(土) 大阪/住友生命いずみホール(モーツアルト・サロン06-6364-5836)
4/18(土) 和歌山/LURU HALL(073-457-1022)


山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki

1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
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