「スタインウェイNo.1」だ。1836年ハインリッヒ・エンゲルハルト・“シュタインヴェーク”製作の最初期モデルを基に、名工クリス・マーネが精巧に再現。それを小倉貴久子が弾く。ウィーン式アクションの楽器にふさわしく選ばれたのはヴォジーシェクとシューベルト。同時代を生きどちらも早世の天才、グンデルホーフのサロンで出会い友情で結ばれた2人の、即興曲とソナタが対比される。各音域が個性的に響く若々しい駿馬のような楽器の力を小倉が存分に引き出し、ヴォジーシェクの華やぎとシューベルトの深みをみごとに描き分ける。シューベルト最後のソナタは、作曲者の息づかいまで聴こえるよう。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2026年4月号より)
【information】
CD『グンデルホーフの2つの「真珠」/小倉貴久子』
ヴォジーシェク:即興曲 op.7より第4,6番、ファンタジー風ソナタ/シューベルト:即興曲 D899より第4番、ソナタ第21番
小倉貴久子(フォルテピアノ)
initié/東京エムプラス
ITE-002 ¥オープン価格

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。

