緻密な猛将が、問題作を解き明かす
断言していい。ラザレフ&日本フィルのショスタコーヴィチ・シリーズは必聴だ。昨年来演奏された交響曲第7・4・11・8番は、全て渾身の名演。それは豪快な熱演にとどまらず、精緻なバランス、的確なフレージング、等しく緊張感を保った弱音と強音…といった配慮の中に、存命中の作曲者を知るラザレフの共感が込められた、他では聴けないショスタコーヴィチ演奏だった。そして次のシーズンは、大作路線から一転、比較的ライトな第9・6・15番が披露されるので、新たな期待に胸が踊る。
最初を飾る10月は第9番。大戦が終結した年に、誰もがベートーヴェンの「第九」のような記念碑的大作を思い描いていた中で発表された、軽妙洒脱なディヴェルティメント風交響曲である。国家や民衆の期待を嘲笑うかのようなこの問題作についてラザレフは、「『確かに戦争は終わった。だがこれからどんないいことがあるのか?』、『明るい色彩の絵を描いた。しかし終楽章でその絵に黒い絵の具をかけてしまった』等のことを感じる」と、第8番の日のアフタートークで語っていた。それだけに今回は、作品の真髄を体感する貴重な機会となるに違いない。
ほかも生では滅多に聴けない曲が並ぶ。まずストラヴィンスキーのバレエ音楽「妖精の口づけ」。チャイコフスキーの楽曲が引用された、不思議なロマン漂うこの新古典主義作品は、ラザレフが演奏を熱望したという。さらにはチャイコフスキーの序曲「ロメオとジュリエット」の旋律に歌詞をつけたタネーエフの二重唱曲(ソプラノ:黒澤麻美/テノール:大槻孝志)もある。全編に捻りが利いた当公演に足を運び、存分に刺激を味わおう。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)
第674回 東京定期演奏会
10/23(金)19:00、10/24(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp