森下幸路と川畑陽子夫妻デュオ第9弾。透徹したヴァイオリンと煌めくピアノの息もぴったり。ベートーヴェンのソナタ第10番では、後期様式の繊細に入り組んだ対位法が細やかに表情づけられて、とても美しい。終楽章の最後にフガートがくるなど、凝った変奏も聴き応えがある。シュトラウスのソナタは雄壮で華麗。小型の交響詩のようでもあり、至る所に美しいメロディが散りばめられている。歌曲も品よく、歌詞が聴こえてくるみたい。武満徹「悲歌」では、表現に不思議な存在感がある。ウェーベルンは凝縮の限りを尽くし、クライスラーでほっとする。全体として、実にバランスの取れた名盤だ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2026年1月号より)
【information】
CD『献呈~ZUEIGNUNG~/森下幸路&川畑陽子』
R.シュトラウス:8つの歌「最後の葉」より〈献呈〉、ヴァイオリンソナタ/武満徹:悲歌/ウェーベルン:ヴァイオリンとピアノのための4つの小品/クライスラー:ロマンス/ベートーヴェン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第10番 他
森下幸路(ヴァイオリン)
川畑陽子(ピアノ)
ナミ・レコード
WWCC-8042 ¥3300(税込)



