“古典と現代をつなぐ”というコンセプトで昨年スタートした東京文化会館の「フェスティヴァル・ランタンポレル Festival de l’Intemporel 〜時代を超える音楽〜」、2回目となる今年はモーツァルト、現代英国を代表するジョージ・ベンジャミン、そしてアルゼンチン生まれでフランスを拠点に活躍する作曲家マルティン・マタロンを柱に古典と現代を交錯させる。

アントニー・ミエ ©C.Quiroz/砂田愛梨 ©Edio Bison/花房英里子
プロデューサーは、作曲家でピアニスト、そして東京文化会館音楽監督を務める野平一郎。かつてIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)で学んだ野平はその経験とインターナショナルな人脈を生かし、こうしたプログラミングを積極的に手掛けてきたが、今回はモーツァルトとベンジャミンを並べた二つの公演を中心に、マタロンを迎え無声映画と現代音楽の融合を試みるシネマ・コンサートと作曲マスタークラスを開催。さらにアコーディオンと打楽器による異色のアンサンブル Trio K/D/M(トリオ・カデム)の公演と、多彩なラインナップを組んだ。野平は開幕初日(11/13)に、マタロン、アントニー・ミエ(Trio K/D/M芸術監督)、IRCAM関係者らとトークセッションを行い、フェスティヴァルのコンセプトを明らかにする。
14日には、チャップリンの無声映画『放浪者』『舞台裏』『移民』にマタロンの音楽を生演奏で付けるシネマ・コンサートが行われる。アコーディオンや電子音響を加えた音楽を作曲者自身の指揮で聴ける点も注目で、喜怒哀楽の心の動きをユーモラスなジェスチャーで表現したチャップリン映画が音で再解釈される。このフェスティヴァルの隠れテーマには、東京文化会館が主催に加わっている東京音楽コンクールの過去の受賞者の積極的な起用があるが、本公演でも今年の声楽部門で2位&聴衆賞を受賞したばかりの砂田愛梨(ソプラノ)をはじめとするフレッシュな若手が登場する。16日にはマタロンによるマスタークラスも予定されている。
15日にはTrio K/D/Mの公演が行われる。マタロン、ドイツ在住の岸野末利加らの作品からなるプログラムはIRCAMの最先端のエレクトロニクスも駆使しており、気鋭の団体が従来の室内楽のイメージを刷新する音響世界を提示するだろう。

上村文乃/福間洸太朗 ©Shuga Chiba
16日は音楽祭の核となる公演で、モーツァルトとベンジャミンの室内楽を対置させる。モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラの二重奏曲 K.423や弦楽五重奏曲 K.406/516bに、ベンジャミンのヴィオラ二重奏曲、独奏ヴァイオリン曲、メゾソプラノ(花房英里子、第19回東京音コン声楽部門第2位および聴衆賞)と弦楽による「沈黙に」を絡めた。出演者はフランスを代表するヴィオラ奏者キャロル・ロト=ドファンを中心に、カルテット・アマービレの篠原悠那(ヴァイオリン、第11回弦楽部門第2位)や田原綾子(ヴィオラ、第11回弦楽部門第1位および聴衆賞)、上村文乃(チェロ、第5回弦楽部門第2位)といった過去の受賞者から注目の若手たちが名を連ねる。
17日にはピアニスト福間洸太朗が登場、モーツァルトのソナタ第12番 K.332、第17番 K.570を最初と最後において、変奏曲 K.573、内省的なアダージョ K.540に、ベンジャミンのカノン風前奏曲「シャドウラインズ」や練習曲を絡ませる。福間の明晰な音色と表現力が、古典の均整美と現代の実験の間に刺激的なダイアローグの場を作り出すはずだ。
今年の「フェスティヴァル・ランタンポレル」は、演奏だけではなく、トークによるディスカッション、創作、後進育成、映像とのコラボレーションなどを一体化させた複合的なラインナップで時代を超える音楽を指し示す。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年11月号より)
野平一郎プロデュース フェスティヴァル・ランタンポレル ~時代を超える音楽~
2025.11/13(木)~11/17(月) 東京文化会館(小) 他
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp
※フェスティヴァルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

