INTERVIEW 田所光之マルセル
「同世代のピアニストたちと切磋琢磨したい」

©Shigeto Imura

 今年で開始から43年を迎える「横浜市招待国際ピアノ演奏会」は、「国際」と掲げる通り、世界各国の優れた若手ピアニストたちを招聘するコンサートで、これまでに200名近くの才能を紹介してきた。近年日本から選ばれた奏者には藤田真央、小林愛実、務川慧悟、三浦謙司らがいる。今年は9年ぶりに、横浜みなとみらいホールの「大ホール」での開催となる。ステージに立つのは、タイのサン・ジッタカーン、フランスのジャン=ポール・ガスパリアン、ドイツのヨナス・アウミラー、そして日本/フランスの田所光之マルセルである。田所は日本人の父とフランス人の母のもとに生まれ、名古屋とパリで学んできた。知られざるロシアの作曲家ヘンゼルトの練習曲集のアルバムや、多様なエチュードを取り上げたリサイタルで注目を集めている。

 「横浜みなとみらいホールは、全日本学生音楽コンクール本選の審査会場でしたから、気合いを入れて臨んだ思い出のホールです。また、初めてヘンゼルト作品を弾いたのは横浜のフィリアホールでした。ご縁を感じる街ですね。

 今回ご一緒する同世代のピアニストたちは、互いに国際コンクールで名前や配信動画を見たり、SNSで繋がったりしています。実際に会って切磋琢磨できる機会となりそうですね。ドイツのヨナスとは、コンクールの際にはお互いに『がんばって!』とメッセージを送り合う仲です。今回は、毎年恒例のアンコールでの連弾を彼とやることになりました。意見交換をしながら様々な発見ができそうで楽しみです」

 田所がこの日のために組んだプログラムは、リストの作品集である。

 「僕は今、エチュードにとても興味があり、中でもリストの練習曲集は憧れの存在です。日本語で『超絶技巧練習曲』と訳される曲集《Études d’exécution transcendante》は、“卓越性をもった再現性の練習曲”といった意味で、決して技巧性を強調する曲集ではなく、音楽的・哲学的な内容です。全12曲で構成されますが、今回は5曲を演奏します。おそらくリストは曲の並びを重視したと思うので、第3番『風景』、第4番『マゼッパ』をつなげ、第7番『エロイカ』と第8番『荒野の狩』を並べます。そして最終曲の第12番『雪かき』も取り上げます。この5曲とともに『愛の夢』第1番を弾きますが、曲順は印象に大きく影響するので、どこに配置するか工夫したいと思っています」

 田所が愛するエチュードたち、そして海外からの俊英3名による輝かしい演奏を、横浜みなとみらいホールの響きと共に堪能したい。

取材・文:飯田有抄

(ぶらあぼ2025年10月号より)

第43回 横浜市招待国際ピアノ演奏会
2025.11/16(日)15:00 横浜みなとみらいホール
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
https://yokohama-minatomiraihall.jp


飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)

音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。