ロン=ティボーを制したウクライナの俊英ヴァイオリニスト、ボーダン・ルーツが初来日

左:ボーダン・ルーツ
右:田村 響 ©武藤 章

 若い才能を紹介する貴重な企画として注目を集める王子ホールのtransitシリーズ。第21回となる今回は2004年ウクライナ生まれのヴァイオリニスト、ボーダン・ルーツの初来日公演となる。

 ボーダン・ルーツの名は2022年のカール・ニールセン国際コンクール優勝によって広く知られることとなり、翌年18歳にしてロン=ティボー国際コンクール第1位の栄光を手にしたことにより世界的に脚光を浴びることとなった。その後はヨーロッパ各地でオーケストラとの共演や音楽祭出演に引っ張りだことなっている。

 確かな技術に支えられた彼の演奏は、どのような難曲を前にしても自然に流れるようで、その風貌と同様に端正で知的な落ち着きを備えている。楽器の音色に対する感性も鋭敏で、その美しい響きが演奏の犠牲となることは一瞬たりともみられない。ヴァイオリン音楽の奥深さを静かに追求していく彼のこうした特質は、今回のプログラムに収められているバッハやイザイの無伴奏作品において最大限に発揮されるのではなかろうか。

 数々の指揮者の信頼を得てきた彼はアンサンブルにも優れ、余裕をもって共演者との対話を楽しむかのような一面を見せる。今回の共演は2007年に弱冠20歳でロン=ティボー国際コンクールの覇者となり、今では日本を代表するピアニストの一人である田村響。同じコンクールで頂点を極めた二人が、グリーグやラヴェルのソナタ他で、世代を超えてどのような音楽を創り上げるかも本公演の大きな聴きどころとなる。

文:近松博郎

(ぶらあぼ2025年10月号より)

transit Vol.21 ボーダン・ルーツ(ヴァイオリン)
2025.11/8(土)15:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
https://www.ojihall.jp