
1925年、スウェーデンでのラジオ放送開始を機に設立されたスウェーデン放送合唱団。創設100周年の今年、現地ではさまざまな祝賀イベントや公演が行われているが、そうした中で、日本での公演が組まれていることは喜ばしい。その歴史を振り返れば、エリック・エリクソンが首席指揮者をつとめ、次々とレパートリーを開拓していった黄金期(1952〜82)や、アバドらのマエストロから絶大な信頼を得て、ベルリン・フィルほか国内外の楽団と共演した時代が燦然と輝くが、時代が移り、メンバーも入れ替わった今も、世界最高峰のアンサンブルとして合唱界を牽引する存在だ。
6年ぶりの今回の来日では、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団との共演に加え、東京オペラシティ コンサートホールでは、来日中唯一の合唱団単独での演奏会を行う。現首席指揮者カスパルス・プトニンシュとのコンビでは、日本初登場となる。
2020年、ペーター・ダイクストラの後任としてスウェーデン放送合唱団の首席指揮者に就任したプトニンシュは、1966年リガ生まれ。リガとロンドンで学んだのち、26歳のときにラトヴィア放送合唱団の指揮者に就任、以来、同団と深い結びつきを維持している(現在は芸術監督)。また2014/15年から21年まで、隣国エストニア・フィルハーモニー室内合唱団の芸術監督・首席指揮者を務めるなど、北欧およびバルト諸国の合唱音楽のエキスパートとして知られる(2017年にはラトヴィア放送合唱団と来日した)。
今回の無伴奏プログラムの中核をなすのはエストニアの大家、アルヴォ・ペルトの音楽だ。プトニンシュは、学生時代にエストニアで初めてペルトの音楽と出会って強い印象を受け、当時ラトヴィアでは西側に亡命したペルトの音楽はほとんど知られていない中、積極的に取り上げたと語っている。彼がエストニア・フィルハーモニー室内合唱団と録音した「マニフィカト」、「ヌンク・ディミティス」(2018年)は、仏ディアパソン・ドール賞を受賞。今回は、スウェーデン放送合唱団とその2作を含む、時代の異なる4作を演奏、90歳のバースデー・イヤーにふさわしいペルト・ワールドが繰り広げられよう。
そしてこのコンビで、現代スウェーデンの作曲家たちの音楽を聴くのも楽しみだ。アンデシュ・ヒルボリの「Mouyayoum」は、テキストや意味内容の重みに縛られない合唱作品を追求した結果生まれた作曲家の代表作。16の声部が浮遊しつつ重なり合い、まるでオーロラのような神秘的なサウンドを生み出す。一方、旧約聖書の『雅歌』に基づくスヴェン=ダヴィッド・サンドストレムの「4つの愛の歌」は、それぞれ短いながらテキストを各パートに散らばせる手法がおもしろい。ブリッタ・ビーストレムの6声のための「グローリア」は、本拠地ベルワルドホールでの10月4日の100周年記念コンサートで初演される、6人の作曲家の共作によるミサ曲の一作。現時点では未発表の作品なので、ストックホルムの聴衆の次に日本の私たちが聴けるということになる。そのほか、リゲティやR.シュトラウスの16声のための作品も必聴だ。
ホールの空間に彼らの精緻な響きが広がるとき、会場は至福に包まれる。
文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2025年10月号より)
スウェーデン放送合唱団
2025.10/21(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp

