異才イェルク・ヴィトマンと精鋭たちで紡ぐメシアンの祈り

左:イェルク・ヴィトマン ©Marco Borggreve/永野英樹 ©J.RADEL/青木尚佳 ©井村重人/笹沼 樹 ©Taira Tairadate

 それぞれの強い個性がぶつかり合い、それが一つとなって大きな高揚感をもたらす。押しも押されもせぬクラリネットのヴィルトゥオーゾ、イェルク・ヴィトマンが、日本の誇る名手たちと繰り広げるTOPPANホールでの室内楽公演には、そんな瞬間が続けざまに訪れるはずだ。

 演奏会は、ヴィトマン作曲による、クラリネットとヴァイオリン、ピアノのための「ミューズの涙」でスタートする。演奏に加わるのは、アンサンブル・アンテルコンタンポランのピアニストで現代曲の世界的なエキスパート、永野英樹。そして、ミュンヘン・フィルのコンマスを務める若き名手、青木尚佳。作曲家としても世界中から引く手あまたのヴィトマンが20代で書いた作品を鮮やかに奏でてくれよう。

 ベルクの「4つの小品」では、ヴィトマンのクラリネットと永野のピアノが緊迫感のあるアンサンブルから、研ぎ澄まされた音楽を紡ぎ出す。ラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」では、カルテット・アマービレのメンバーで力強さと繊細さを備えたチェリスト、笹沼樹が登場。青木との濃厚なデュオに期待したい。

 そして、出演者総出となるメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」。第二次世界大戦下の捕虜収容所で書かれたという、絶望的な状況に宿る希望と信仰の音楽がホールを満たす。この作品はソロやデュオの形態による楽章も多い。とりわけクラリネット独奏による第3楽章、ヴィトマンが得意な弱音も生かした繊細な表現には誰もが耳を奪われるはずだ。

文:鈴木淳史

(ぶらあぼ2025年9月号より)

イェルク・ヴィトマン(クラリネット)mit 青木尚佳(ヴァイオリン) & 笹沼 樹(チェロ) & 永野英樹(ピアノ)
2025.11/15(土)13:00 TOPPANホール
問:TOPPANホールチケットセンター03-5840-2222 
https://www.toppanhall.com


鈴木淳史 Atsufumi Suzuki

雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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