
久米俊輔/森下 唯 ©KEIKOHIRANO/中村 蓉 ©金子愛帆
一流アーティストを起用したオリジナルの舞台芸術作品で、青少年に向けた「劇場デビューの機会の創出」を発信する。それが東京文化会館の「シアター・デビュー・プログラム」である。今回は青春小説で有名な森絵都『彼女のアリア』が舞台化されることになった。
本作はJ.S.バッハの作品(作編曲:根本卓也)をちりばめ、特に「ゴルトベルク変奏曲」が象徴的に用いられる。ピアノを弾く少女・藤谷(北川理恵)と、彼女に惹かれる「ぼく」(久米俊輔)という二人の中学3年生の物語だ。同曲には「不眠症に悩む伯爵のために作られた説」があるが、本作でも不眠症は重要なカギとなる。思春期の不安定な心や複雑な感情の機微が共感を呼ぶ作品である。
演出の生田みゆきは、出演者同士の関係性から生まれる自然で繊細な演出が特徴である。じつは東京藝術大学大学院音楽研究科出身で、曲への理解も深い。ピアノの森下唯も同大学院出身で高い技術を誇る一方、アニメ曲のアルバムを出すなど若々しい感性を持っている。
特筆すべきは、振付・ダンスの中村蓉である。自ら演劇的なコンテンポラリー作品を手がけ、オペラ演出も多数担当する彼女の振付は、シリアスな感情の重みとポップなユーモアのバランスが絶妙である。若者の揺れ動く内面を情感豊かに描き出すだろう。ダンサーは中村のほか、野口卓磨、長谷川暢が出演する。
文学、音楽、演劇、ダンスが織りなす本作は、中高生のみならず、大人にとっても青春時代を振り返り、純粋な気持ちを呼び覚ますに違いない。誰しもの心に深く響く舞台となるだろう。
文:乗越たかお
(ぶらあぼ2025年9月号より)
Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム『彼女のアリア』(新制作)
2025.10/24(金)19:00、10/25(土)14:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp

