
ニューヨーク・タイムズ紙で「グールドくらい極めて個性的なピアニスト」と評されたフランスのピアニスト、ダヴィッド・フレイが実に14年ぶりに来日する。東京で初となるリサイタルの開催ということもあり、これがどれほど嬉しいニュースであるかは、なかなかピンと来づらいかもしれない。だが、これまで彼がリリースしてきたバッハの「ゴルトベルク変奏曲」や「パルティータ」、ショパン作品集、シューベルトの「楽興の時」といったアルバムに刻まれた、その研ぎ澄まされた感性と、繊細極まりないタッチに触れたならば、実演を聴ける機会の到来は心躍るニュースとなるだろう。
しかもプログラミングが非常にユニークだ。前半はスカルラッティ、クープラン、ラモー、ヘンデル、J.S.バッハらのバロック時代の作品である。ただしヘンデルとバッハの作品は、フェインベルク、ストラーダル、ケンプといった19〜20世紀に活躍したピアニストたちによる編曲作品である(ヘンデルは組曲HWV434「メヌエット」、バッハは無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番やトリオ・ソナタ第5番など)。フレイの多彩な表現力が、時代を行き来する音響空間を生み出してくれそうだ。後半はワーグナーの世界へと飛ぶ。演奏機会の珍しいピアノ・ソナタWWV85、ビューローおよびリスト編曲による《トリスタンとイゾルデ》からの編曲作品である。抒情性に満ち、闇と光とを無段階的に描き出すフレイのピアニズムを、ぜひお聴き逃しなく!
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2025年9月号より)
ダヴィッド・フレイ ピアノ・リサイタル
2025.10/30(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/

飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)
音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。

