
アンサンブル・ノマドの第85回定期は「まなざし、あるいは差異の煌めき vol.2:今へのまなざし」と題されたスリリングなプログラムである。4人の邦人作曲家は世代も作風もまったく異なる。
バロック・アンサンブルのための藤倉大「グリーンティー・コンチェルト」は作曲者の幼少の記憶が詰まった一曲。木ノ脇道元がモダンフルートでソロを務める。気鋭・久保哲朗の「バベル」は日本音楽コンクール1位に輝いた作品で冒頭から特異な音響に耳を奪われる。ピアニストでもあり欧州留学中の久保田草太による「イントネーション」は、今回が世界初演だ。クラリネットとギターのための三瀬和朗「夜想曲」はリリカルで精緻な曲。ベテランらしい気概が感じられる。1963年生まれのエベルト・バスケスはアンサンブル・ノマドでしばしば取り上げられてきたメキシコの作曲家だが、彼への委嘱新作「空(くう)に鳴る」の世界初演も楽しみだ。ノマドのメンバーにギターのパブロ・ガリベイ、尺八の黒田鈴尊らも加わり、華やいだ一夜となろう。
文:伊藤制子
(ぶらあぼ2025年9月号より)
アンサンブル・ノマド 第85回 定期演奏会
「まなざし、あるいは差異の煌めき」vol.2:今へのまなざし
2025.9/26(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165
https://www.ensemble-nomad.com

伊藤制子 Seiko Ito(音楽学・音楽評論)
東京藝大、同大大学院修了。現在、東邦音大・同大学院、静岡文化芸大、日大講師。日仏の20世紀以後の音楽、音楽美学を研究するかたわら、音楽評論、海外オペラ取材なども行う。2017年のモンテヴェルディ生誕450年イヤーにヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場のモンテヴェルディ三部作の上演を取材。音楽以外のライフワークは旅と俳句。奈良、ヴェネツィアなどで史跡を探索するのが趣味。

